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2011年03月29日

『Juliet』Anne Fortier(Random House)

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 昨年、そして一昨年と2年続けてイタリアに旅行に出かけた。この2年で訪れた街にはフィレンツェ、ローマ、ミラノ、ヴェニスなどがあった。

 フィレンツェに滞在した時は、バスに乗って近くの街シエナに行った。とても暑い日でカンポ広場を横切るだけで生命の危険を感じた。

 イタリア人は何故こんなに広い広場を作らなければ気が済まないのだろうかと恨めしくも感じた。

 そして昨年、映画「ジュリエットからの手紙」の脚本を翻訳する仕事をした。シェイクスピアの作品「ロミオとジュリエット」の舞台となったイタリアの街ヴェローナがでてくる。映画のなかでイタリア人が、イギリス人は感情がなく冷たいと言う場面があり、イギリス人の主人公のひとりは「ロミオとジュリエット」を書いたのは誰なのかと質問する。世紀の恋愛悲劇を書いたのはイギリス人だというわけである。

 しかし、今回読んだアン・フォーティアの小説「Juliet」では、「ロミオとジュリエット」には1340年にシエナで起こった「事件」を題材としたイタリア人の手による一連の元ネタ作品があるという。

 物語はアメリカ人のジュリーとジャニスの双子の姉妹の親代わりだった小母のローズが死ぬところから始まる。

 ふたりを平等に可愛がってきた小母だったが、ジャニスには遺産として家を与えるが、ジュリーにはたった一個の鍵を残しただけだった。この鍵を持ってシエナにある、今は銀行となっているトロメイ宮へ行くようにという手紙を残す。

 そしてその手紙で、ジュリーの本名はジュリエッタ・トロメイであることを伝える。
ジュリーはシエナで1340年に起こった事件を知り、自分が「ロミオとジュリエット」のジュリエットのモデルとなった彼女と同名のジュリエッタ・トロメイの直系の子孫であることを知る。そして、彼女に残された宝の行方を追い始める。

 シエナにはトロメイ家の昔からの宿敵といえるサリンベーニ家があり、ジュリエッタはサリンベーニ家の者をゴッドマザーに持つ青年の力を借りる。

 「私たちの2家族、トロメイ家とサリンベーニ家は古くから怨恨を抱き続けている、血まみれの怨恨・・・もし、私たちが中世にいたら、お互いをやっつけようとしているはずだ。ロミオとジュリエットのキャピュレット家とモンタギュー家のように」

 シュリエッタをシエナに向かわせたのはサリンベーニ家に関わる人間の企てだった可能性もあり、謎はさらに深まっていく。

 物語は、トロメイ家、サンベリーニ家、そしてロミオが属するマレスコッティ家が関わる1340年のシエナで起こった事件と、現在の話が交互に描かれ、薄いベールを少しずつはがしていくような楽しさがある。

 イタリアの美しい街と、そこで起きた悲劇と、そしてジュリエッタの運命。宿敵の家系に属する若いふたりの恋の行方、宝の行方、ジュリエッタをシエナに向かわせた本当の理由はなど幾重にも謎が重なり、読み始めたら止まらなくなる面白さだ。

 


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2011年03月17日

『A Day Late and a Dollar Short』Terry McMillan(Viking )

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「中産階級に属するアメリカ黒人家庭の物語」


 アメリカの人気作家テリー・マクミランの作品。彼女は『How Stella Got Her Groove Back』や『Waiting to Exhale』など、黒人の中産階級の家庭を舞台にした作品を多く発表している。この作品も中流の黒人家族が主人公となっている。

 数年前、こちらのネットワークテレビ局であるNBCのニュース番組で、アメリカにはいま黒人の中産階級が多く誕生しているという統計を伝えていた。アメリカの黒人の一般的な地位の向上がマクミランのような人気作家を生み出したのだろう。

 マクミラン自身、以前あるインタビューで次のように述べていた。

 「私は、犠牲者のことを書きたくない。犠牲者の話は退屈で、私を死にそうにさせる。誰もが何らかの形で犠牲者となっているなのだから」

 彼女は、アメリカの社会で黒人がいかに差別され、恵まれないかという物語を読むのも書くのも退屈だと思っているようだ。

 その言葉通りマクミランの描き出す主人公が持つ迷いや苦しみは、黒人特有のものではなく、アメリカ人全体に共通するものだ。彼女の描き出す主人公の多くは高い教育を受け、頭がよく、お金もある黒人女性である。しかし彼女たちは、教育や物質だけでは満たされない孤独を感じ、自分の人生の行方に疑問を抱いている。つまり、黒人の受ける人種差別や、貧困から生まれる不幸ではなく、人生とはなにか、自分とは一体誰なのかという人間の持つ共通テーマを小説の世界に持ち込んでいる。

 今回の彼女の作品もやはりそんな人間の普遍的な部分を描いた作品だ。

 物語は三人の娘とひとりの息子がいるプライス一家の話だ。各章ごとに一人称で、母親、父親、娘たち、息子と各人の生活が描き出される。物語の中心に居るのが、母親のビオラだ。彼女は、すでに成人して家庭を持った子供たちを愛しているが、電話ではいつも喧嘩になってしまう。

 父親のセシルは、家を出て歳の若い女性と同棲を始めている。息子のルイスは、盗みや酒酔い運転で警察に何度も捕まり、いつまでも母親を煩わす。長女は社会的に成功しているが孤独だ。その孤独を癒すために彼女は薬を使っている。次女は誰に対してもとげとげしくあたる。

 マクミランはこの複雑な家族設定をもとに、家族とはなんであるかを描いていく。姉妹間のライバル意識や、夫や恋人の裏切り、親子の感情の行き違いなど、題材は果てしなく広がるのだが、各章ごとに緊張感がありラストのハッピーエンディングまで一気に読まされてしまう。

 この本は、本当に大切なものは完全な形ではないにしろいつか必ず自分のところにやってくるということがテーマとなっている。テーマは黒人特有のものではないと始めに述べたが、登場人物の話す言葉は黒人特有の言葉使いが随所にみられ、登場人物の考え方や、生活の場となる文化圏はやはり黒人のものだといえる。
 


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