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2010年11月26日

『The Winter of Frankie Machine』Don Winslow(Vintage Books )

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 英語で「wise guy」と言うとマフィアメンバーのことを指す。アル・カポネ、ラッキー・ルチアーノ、バグジー・シーゲル、ジョン・ガッティなど有名なワイズ・ガイたちはアメリカ東海岸やラスベガスで大活躍(といったらいいのだろうか)した。

 今回読んだドン・ウィンズロウの「The Winter of Frankie Machine」では、出だしの部分で南カリフォルニアの海の美しさが語られる。

 「いつもサーフィンをやめてみんなと一緒に夕陽をみていた。・・・水平線に沈む太陽と、オレンジ色、ピンク、赤に染まる海を見て、こんなに幸せなことはないと感じていた」」

 主人公のフランク・マキアーノはサンディエゴに住むワイズ・ガイだ。彼はヒットマン(殺し屋)として名を馳せ、その仕事の正確さから「フランキー・マシーン」との異名をとっていた。

 南カリフォルニアのワイズ・ガイだけに、フランクは昔からのサーファーだった。それで彼の海に対する思いが出だしで語られるわけだ。

 東海岸に住む者にとっては、マフィアがサーフィンをすることにびっくりしたが、作品は常にどこかに潮の匂いを感じさせる、暴力とノスタルジアが交差する読み応えのあるものとなっていた。

 マフィアの世界から足を洗ったフランクは埠頭で釣り餌店を開き、そのほかにも海鮮業者、タオル業者、不動産管理業者として忙しい日々を送っている。

 離婚した妻との元に一人娘のジルがいて、フランクはジルを愛している。彼女がUCLAのメディカルスクールに受かり、フランクはお金の算段をしなくてはならない。

 そんな時、昔のボスの息子からポルノビデオのいざこざを解決して欲しいと頼まれる。謝礼金は5万ドル。

 フランクは話をつけに知り合いのマフィアのもとに赴く。しかし、これはフランクを殺すための罠だった。どうして昔のボスが自分の命を狙うのか。自分を殺せという命令はどこから出ているにか。そうして、何故自分は命を狙われるのか。

 フランクは昔片付けた数々の「ヒット(殺し)」を思い出しながら、謎を探っていく。

 ハードボイルドだが、ノスタルジーも感じさせてくれる。「ゴッドファーザー」などとはひと味違う、南カリフォルニアを舞台にしたマフィア・ストーリーだ。


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2010年11月13日

『The Thing around Your Neck』Chimamanda Ngozi Adichie,(Anchor Books)

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「アフリカ出身の作家、アディーチェの短編集」


 アメリカに住む日本人として、ジュノ・ディアズ、ジュンパ・ラヒリ、ハ・ジン、エドウィージ・ダンティカなどの移民の体験や声を伝える作家や作品を数多く読んできた。

 今回、ニューヨーカー誌の「20 Under 30」の一人に選ばれたということで、アフリカ・ナイジェリア生まれのチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短編集「The Thing Around Your Neck」を遅ればせながら読んだ。

 この短編集はアメリカを舞台にしたものや、アメリカと関係を持つ主人公が登場する作品が多い。収められている短編は全部で12本。他の国で生まれ育ちアメリカに暮す者の多くが日々の生活のなかで感じてしまう「ここでの生活は本物だろうか」という疑問が作品の中に感じられる。

 自分が慣れ親しんだ祖国の文化とアメリカ文化の衝突のなかでこの疑問は生まれてくる。この疑問は自分の内面に反映され「ここで生活している私は果たして本物の私だろうか」と自問することになる。

 特に「世界の白人文化の代表」のような一面を持つアメリカ文化と自分をどう対峙させるかという問題は、異文化圏からアメリカに移ってきた者には大きな問題となる。

 そのひとつが自分の名前の問題である。アメリカ社会に自分を溶け込まさせるためには、名前をアメリカ的な「テッド」や「トム」に変えてしまった方が楽である。自分の名前は自己アイデンティティに繋がっており、自分とアメリカ社会の接し方を現している。インド出身でピューリッツア賞を受賞したジュンパ・ラヒリはこのテーマを「The Namesake」という小説で追った。

 アディーチェの作品のなかにも「The Arrangers of Marriage」という小説がある。ナイジェリア生まれの主人公のチナザは親戚を通して、同じナイジェリアの出身のオフォダイルという青年と結婚をする。彼はアメリカに住み、職業は医者だという。

 チナザはブルックリンのフラットブッシュに住むオフォダイルの住居を初めて訪れる。ハウスだと聞いていた彼の住居はアパートで、家具もろくに揃っていない。医者と聞いていたが、実はまだインターンで暮らしも楽ではない。

 アメリカでオフォダイルは自分のことをデイブと名乗り、ウデンワというラストネームもベルに変えている。デイブ・ベル。それが新たな夫となった男のアメリカでの名前だ。夫はチナザ・アガサ・オカフォーという名前を持ち、ずっとチナザ・オカフォーと呼ばれてきた主人公にもアガサ・ベルと名乗れと言う。挨拶は「ハイ」、ビスケットは「クッキー」と呼べと「アメリカ式の生活」をチナザに強要する。さらにモールに彼女を連れて行き「フードコート」でピザを食べさせる。

 また、表題作の「The Thing Around Your Neck」は、アメリカ政府が行う永住権ロッタリーの抽選でアメリカ永住権を得た主人公が、メイン州に住む小父を頼ってアメリカに移ってくる物語だ。22歳の主人公はその小父の家で彼からセックスを迫られる。家を飛び出しグレイハウンド・バスに乗った彼女はそのバスの終点であったコネチカット州でウエイトレスとして働き始める。そして、そのレストランで客として来ていた白人青年と付き合い始める。

 しかし、夜、眠りに入る前の首の周りを締め付けられるような感覚はなくならない。作品タイトルにもなっているこの感覚は、祖国を離れ、ウエイトレスとして働いている現状、アメリカの白人ボーイフレンドに感じる違和感、一方、暴力と腐敗に溢れ、未来のない祖国の状況など彼女を取り巻く混沌から生まれている。その中で主人公はある決断をする。

 アディーチェは作品で、異なる文化のなかに存在する異なる残酷さや、出だしで述べた本物の自分への疑問を描いているが、なにより物事はどう崩壊していき、その中で人はいかに新たな道を歩き始めるかを描いている。読後の感覚は、寂寥としたなかにも微かな希望の光がのぞき、胸の中にある種の重みが残るものだった。


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