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2010年08月13日

『The Thousand Autumns of Jacob de Zoet 』 David Mitchell(Random House )

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 日本を舞台にした小説「The Thousand Autumns of Jacob De Zoet」。著者はイギリス出身の注目の作家デヴィッド・ミッチェル。ミッチェルは2007年のタイム誌で「世界で最も影響力のある小説家」の一人に選ばれ、イギリスの権威ある文学賞であるブッカー賞の最終候補に2度も残っている。

 それに、文芸誌グランタの「若手イギリス作家ベスト20」の一人にも選ばれた。文学界では彼の才能は「本物」だという評価が定まっている。

 彼の新作の発刊を知ったのはニューヨーク・タイムズ日曜版のブックレビューだった。評者が作家のデイヴ・エガーズで、やはりこれは人目をひいた。

 著者の経歴を読むと英語教師として広島で8年間暮らしたとあり、日本人としては親近感も生まれる。

 物語の始まりは1799年の日本。場所は長崎の出島だ。主人公の De Zoetはオランダ東インド会社の会計係として、 新たなオランダ商館長となるヴォルステンボーシュと共に出島にやってくる。それまでの会計に不正の疑いがあり、 日本側の記録とつきあわせ、帳簿を正す作業を行う。

 De Zoetの見た出島は、日本側、オランダ側を問わず不正、裏切り、密告、騙しが横行する場所だった。

 De Zoetにはオランダに婚約者がいて、出島で金と地位を得て故郷に帰ろうと考えている。しかし、その思いはオリトという女性と出会い変わってしまう。オリトは、優れた知識を持つ助産師で出島の医者マリナスの主催のセミナーのメンバーとなっていた。

 オリトの父親が大きな借金を残して死に、エノモト僧正が借金を肩代わりする代わりにオリトを買い、彼女を自分の権力内の寺院の尼とするところから物語は急展開していく。

 第2章では、 De Zoetではなくオリトに心を寄せる通詞(通訳)オガワ・ウザエモンの運命やその寺院で行われている悪魔的な結社の姿が語られていく。

 その後、1799年の末にはオランダ東インド会社は解散してしまい、オランダ自体がフランスに占領されてしまう。この辺りの国際事情は実際の歴史と重なる。イギリスが出島の乗っ取りをもくろみ、 De Zoetたちは日本側と共に、出島の防衛に乗り出す。

 約500ページに及ぶこの物語では、登場する人物の人生が丁寧に書き込まれていて読み応えがある。ミッチェルは情景描写に日本的な要素を取り入れ、しっとりとした感情を呼び起こすことにも成功している。

 また、 De Zoetはヘンドリック・ドゥーフという、18年間も出島に滞在し日本人女性との間に子供ももうけた実在の人物をモデルとしており、そちらの史実を紐解くのも面白い。

 センチメンタルに流されず、美しく、残酷で、そして心が裂けるような感情を呼び起こすミッチェルの物語は上質な絹の感触がした。


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