« 2010年05月 | メイン | 2010年07月 »

2010年06月29日

『Toxic Talk : How the Radical Right Has Poisoned America’s Airwaves 』Bill Press(Thomas Dunne Books)

Toxic Talk : How the Radical Right Has Poisoned America’s Airwaves →bookwebで購入

「アメリカのライトウイング司会者が伝える「嘘」」


 前回の大統領選で共和党候補のジョン・マケインが負け、勢いを失ったアメリカの共和党。共和党はいま党を引っ張っていくリーダー不在の形だ。

 一方、オバマ・アドミニストレーションで重要な地位にあるアメリカ合衆国大統領首席補佐官ラーム・エマニュエルは、ラッシュ・リンボーが「共和党の声であり、知的な力であり、エネルギーの根源である」と語った。CBSの日曜の政治討論番組「Face the Nation」でもホストのボブ・シーファーにラッシュ・リンボーが「知的な力であり、共和党が彼に注目するのはそのせいだ」と語った。

 では、いまの共和党の最も重要な力とされるラッシュ・リンボーとは誰だろうか。

 リンボーは、ウルトラ・ライトのトークラジオ司会者だ。民主党としては、リーダー不在の共和党は極右のリンボーに乗っ取られ、一般のアメリカ大衆とは乖離した党になっているというメッセージを伝える狙いがある。

 リンボーに限らず、アメリカでは視聴者参加型の政治番組であるトークラジオの人気が高い。そして、このトークラジオ番組のほとんどがウルトラ・ライトの司会者で占められている。

 僕もこのトークラジオを90年代から聞きはじめた。ちょうど先ほどのリンボーの人気が急上昇し、テレビ番組まで持つようになった時代だった。

 僕が定期的に聞いていたホストは、リンボーのほか、スティーブ・マルツバーグ、リン・サミュエル、マーク・レヴィン、マイケル・サヴェージ、カーティス・スリワ、ライオネル、ショーン・ハニティなどだった。このうちの多くがウルトラ・ライトのトークラジオ・ホストであり、民主党よりの僕としては、最初はライトウイングからの歯に衣着せない意見が新鮮だった。ものの見方や言い方は、立場を変えると全く違ったものになり、どちらの意見もそれなりに説得力があると勉強にもなったものだ。

 ウルトラ・ライトのホストたちの番組が聞くに耐えなくなってきたのは、先の大統領ジョージ・W・ブッシュと副大統領ディック・チェイニーの元でアメリカがイラクとアフガニスタンに戦争を始めてからだった。

 大統領の権限を無理矢理広げ強引に戦争をおこなうブッシュと彼のアドミニストレーションを、ライトウイングのホストたちは後押しした。ナショナリズムに訴え、戦争を支持しない者は腰抜けのリベラルであり、ブッシュのやり方に意義を唱える者はアメリカに対する愛国心がない者だとまくしたてた。

 「グレート・アメリカン」とは保守的なアメリカ人を指し、アメリカは民主主義を世界に押し広げ、アメリカが世界で一番で、もしほかの国が賛成しなければそれは残念だが、アメリカは好きなことをやる権利があり、その力があるというメッセージを訴え続けた。そして、自分たちの意見に賛成でないアメリカ国民はすべて反アメリカ的だと決めつけた。

 ブッシュ・アドミニストレーションは、伝える内容のどこまでが真実かが常にはっきりとしないアドミニストレーションだった。それと同じく、ライトウイングのホストたちも真実でないことを事実だとして伝えている。

 そうして、何度も嘘を繰り返せば、ある人間にとってはそれが真実となってしまう。イラクが「大量破壊兵器」を開発間近で、その開発・使用を阻止するためにブッシュがイラク戦争を始めたという「嘘」を信じているアメリカ人はいまだにいるだろう。

 そして、大統領がオバマに変わっても、ライトウイング・ホストの「嘘」は止むことがない。「オバマはイスラム教徒だ」、「オバマはアメリカで生まれていないので大統領になる資格がない」、「オバマは社会主義者だ」、「オバマはテロリストと結びついている」などなど、これらはライトウイング・ホストたちによって「事実」として語られたことだ。

 リンボー、サヴェージ、ハニティ、グレン・ベック、ビル・オライリー、ローラ・イングラムなどのアメリカのウルトラ・ライトのホストたちがどんなことを言ってきたかを伝えるのがこの「Toxic Talk」だ。

 著者は政治コメンテーター、トークラジオ・ホストであるビル・プレス。リベラル派に属する人間だ。

 現在、アメリカで週日に流されるトークラジオの91%のエアータイムがライトウイング・ホストからのものだという。彼らの視聴者の核となるのが、裕福な白人中年層だ。購買力がある視聴者からの支持はこれからもライトウイング・ホストの番組が企業からの予算を受けることを意味する。

 以前、ライトウイング・ホストたちは共和党の決めた論点を宣伝する役目を果たしていたが、いまは逆に共和党の論点を決定する力を持っている。リンボーが共和党の「知の力」と言われる由縁である。

 ライトウイングのホストたちは、アメリカの一面を映し出している。いま、ライトウイングがどこにいるのかを知るためにも一読の価値がある本だ。



→bookwebで購入

2010年06月21日

『The Imperfectionists』Tom Rachman(Dial )

The Imperfectionists →bookwebで購入

「消えゆく新聞社とそこに関わる人々の人間模様」


 旧式のコンピュータが並ぶ古いニュースルーム。机の上には資料や新聞が山と積まれ、床には煙草の吸い殻が散らかっている。

 こんな新聞社で働く人々にはどんな運命が用意されているのだろうか。

 死にゆく新聞社とそこに働くジャーナリストや経営陣の人生を切り取ってみせてくれるのが今回紹介する「The Imperfections」だ。

 華やかなローマの街で発行される英字新聞。世界中に読者がいるこの英字新聞を発行する新聞社がこの小説の舞台だ。新聞社は1953年にアメリカ人の富豪によって設立された。

 この小説の著者は、コロンビア大学のジャーナリズム科を卒業し、AP通信社のローマ特派員、インターナショナル・ヘラルドトリビューン紙のパリ支局編集者を務めたトム・ラクマン。

 物語に登場する新聞は発行部数も少なくなり、ウェブサイトもない。まさに、古い時代に属する新聞社だ。

 物語ではこの新聞社に関わる11人の人生が描かれる。1章ごとにそれぞれの生活が読み切りの物語として紹介されている。

 そうして各章の間には、この新聞社を創設したサイラス・オットと、オット財閥の経営を受継ぐオットの子供や孫たちが登場する短い章がある。この短い章で、サイラスがこの新聞社を始めた謎が語られる仕掛けだ。

 物語の最初に登場するのは、新聞社のパリ非常勤通信員のロイド・バーコ。

 古株のひとりであるバーコは70歳になる。彼には18歳年下の妻アイリーンがいる。以前は刺激的だった年の違いが、いまでは海のようにふたりを隔てている。彼女は、近所の男のところに半分住居を移してしまった。

 新たな記事の注文のために新聞社に連絡を取るが、彼の提案した文化記事は全て却下される。新聞社はテロリズムやイランの核についてのインサイドストーリーなどを欲しがっている。

 彼はフランス外務省に務める息子をランチに誘い、なにか情報を漏らすように迫る。息子が唯一のニュースソースだ。夫としても記者としても、一線を超えていってしまう人間の姿が描かれる。

 死亡記事を担当するアーサーは、自らの娘の死と、死亡記事を準備するためにインタビューをした作家の死を通して 人生を見つめ直す。

 そのほか、編集長のキャサリーン、財務担当のアビーなどの様々な人間模様が描かれる。

 そして、時代のなかで遂に新聞は消え去っていく。

 「かつてこの部屋には世界の全てがあった。今日あるのはゴミだけだ。新聞は1日も休むことがなかった。いまはもうその姿はない」

 著者の知っている世界を描いた物語は、ジャーナリズムに関わる人間への愛情が感じられる作品だった。


→bookwebで購入

2010年06月14日

『Bergdorf Blondes 』Plum Sykes(Miramax)

Bergdorf Blondes →bookwebで購入

「サマーリーディングにお勧めの一冊」


 最近あまりお目にかからなくなったが「チックリット(chick lit)」という言葉がある。チックリットとはchick literature(若い女性の文学)の略で、若い女性が登場人物となり、自分を取り巻く社会的状況、つまりロマンスやセックスのことなどをコミカルに描いた小説を指す。代表的なものではイギリス人の作家のヘレン・フィールディングが書いて大ヒットとなった『ブリジッド・ジョーンズの日記』がある。アメリカのものではキャンディス・ブシュネルの『セックス・アンド・ザ・シティ』が有名だろう。    チックリットは売れ行きがよく話題にもよくのぼる。今回紹介するのも、このチックリット作品である『Bergdorf Blondes』だが、その前にもう少しチックリットのことを話そう。    チックリットの舞台となるのは、やはりロンドンやニューヨークなどの大きな街が多い。そのジャングルのような街で、どうやってよい男を見つけるかがテーマとなる。主人公は社会が強要するいまの女性の理想像と現実の自分の姿との違いに悩み、セックスという問題にどう対処するのかにも迷う。チックリットは都会に住む女性ならではの文学だ    ところで、今回の作品だが、舞台はニューヨーク。ニューヨークにはバーグドルフ・グッドマンなる高級デパートがあるが、主人公(最後まで名前がでてこない)の一番の親友がこのデパートの跡取り娘のジュリー。ジュリーたちは自分たちの金髪を完璧に整えるために、3週間に1度、1回450ドルでカリスマ美容師に髪を整えてもらい、ハンドバッグを選ぶようにボーイフレンドを変える。しかし、仲間の何人かが婚約をし、婚約した女性の肌の色がとてもよくなるという理由で、主人公とジュリーはPH(パーフェクト・ハズバンド)を探し始める。一方、イギリスに住んでいる主人公の母親は、彼女にイギリス貴族との結婚を強く望んでいる。    主人公は、大きな慈善パーティでファッション・フォトグラファーと知り合い、すぐに婚約をするが、婚約のあと男の態度が豹変してしまう。次に、パリのリッツホテルでイタリアの貴族と出会うが、彼の正体はコネチカット州に妻も子供もいるただのアメリカ人だった。その間に、ロサンゼルスでインディー映画の監督と出会い、彼をジュリーに引き合わせる。次の男は、もうすぐ離婚をするという、映画プロデューサーで、彼女をプライベート・ジェットでカンヌ映画祭に誘う。しかし、この男ともうまくいかなくなったとき、インディー映画の監督と南仏ニースの空港で再会する。主人公は、この監督を好きではないが、どこか心にひっかかりを感じる。そして物語は、イギリスの両親のもとで、誰もが幸せになるハッピーエンドを迎える。

 この作品の面白さは、ニューヨークの社交界にいる若い女性の大衆離れした価値観や、見栄や嫉妬のなかで生きる娘たちの思考回路や行動をコミカルにみせてくれたところだ。ビーチなどで楽しむ、リズミカルで軽快な読み物として最適だ。

 著者のプラム・サイクスは英国ロンドン生まれ。英国ヴォーグ誌に勤めたのち、1997年から米国ヴォーグ誌の寄稿編集者を務める。現在、ニューヨークとロンドンを行き来する生活。髪の色はブルーネットだ。
 
 
 
 


→bookwebで購入