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2010年02月11日

『Bright-Sided : How the Relentless Promotion of Positive Thinking Has Undermined America』Barbara Ehrenreich(Metropolitan Books)

Bright-Sided : How the Relentless Promotion of Positive Thinking Has Undermined America →bookwebで購入

「ポジティブ・シンキング万能の考え方に一石を投じる本」


 世の中には何事にも前向きという人がいる。自分の周りに起こることをポジティブに捉え、元気に進んでく。一方、多くのことを悲観的に捉え、すぐにくよくよとしてしまう人もいる。そうして、僕のように社会の大きな流れには背を向けて、何がそんなに楽しい、あるいは悲しいのだろうと、いうなれば世間を真っすぐに受け止められず、どこか斜めに見ている人間もいる。

 このなかで最もよいとされているのは、もちろんポジティブな生き方だろう。いつも前向きな考え方や態度でいれば、いいことが起きるとポジティブな人は言う。僕はそういうふうにポジティブに生きていける人がうらやましくもあるが、どこかでそんなに単純には生きていけないと感じ、このポジティブな生き方にどこかうさん臭さを感じていた。

 僕が感じるポジティブさへの、このうさん臭さはどこからくるのだろうと考えていたが、はっきりとした答えは出なかった。

 しかし、世の中には同じように考えている人もいるもので、今回読んだ『Bright-Sided』はこのうさん臭さの元をはっきりと見せてくれた。

 著者は、バーバラ・エーレンライク。『Nickel and Dimed』や『Bait and Switch』などの著作がある硬派な社会派のジャーナリストだ。

 著作の舞台はアメリカだが、アメリカでもポジティブな生き方は良いとされている。「Positive」と「Right」は同義語になっているくらいだ。しかし、このポジティブに生きようとする考え方、ポジティブ・シンキングが企業や個人、それに政府に都合よく使われている。

 例えば、企業の業績が悪くなるとアメリカはすぐに人を切り捨てる。そうして、経営陣は切り捨てた人々のところへポジティブ・シンキングを唱えるいわゆる「ポジティブ・シンキングコーチ」を送り込む。コーチは解雇された人々を前に、逆境でも前向きに生きることが唯一の道だと唱える。状況が悪くなったのは、自分のポジティブさが足りなかったため、物事がうまく行かないのも君のポジティブさが足りないからだと力説する。なにもかも自分のせい。企業や業績を悪化された経営陣は悪くなく、前向きさが足りなかったあなたたちが悪い。だから、これからはもっとポジティブに生きよう、という具合だ。

 また、宗教でもこのポジティブ・シンキングが利用されているとバーバラは報告している。神を信じれば、仕事、昇進、恋人、車、家、子供、地位など、なんでも手に入る。まだ手に入れられていないのは、あなたのポジティブな祈りが足りないからだ。神は、神にポジティブな人には、きちんとした物や場所を用意している。さあ、神に対するポジティブさを見せよう(つまり多額の寄付や奉仕労働をおこない、その宗教家の言う通りにすること)と、大金持ちの宗教リーダーは言う。

 また、今回のアメリカに端を発した金融危機にも、ポジティブ・シンキングが関わっている。リーマンショックに代表される今回の金融危機は、多くの金融機関がローンを返せない人々に住宅ローンを組ませ、その焦げ付きが問題となった。ローンを組ませた金融関係の人のなかには、いままで住宅を持つことができなかった人々に住宅を持たせることができると本気で考えた人々がいて、借りる方も今の状況では返せないが、いつか返せる状況になると物事をポジティブに捉え、住宅ローンを組んだ。結果、物事はそうはうまくはいかず、最後はローン返済が不可能になってしまった。

 ポジティブ・シンキングの欠陥は、ネガティブな考えや意見を排除するところにある。ネガティブな要素を認めたら、ポジティブな考え方には辿り着かない。そのため、ポジティブ・シンキングを実践しようとすると、的確な判断が不可能になってしまう。ジョージ・W・ブッシュはイラク戦争に突入する際、開戦を阻むネガティブな情報を排除し、開戦に反対する者の意見を排除した。会社組織においても、社員の能力ではなく、ネガティブな意見を持つ者が排除されていく。

 戦争を開始し、人々や社会に大きな不幸をもたらした、ブッシュとその政権にいた人々はいまでも元気に暮らし、金融危機を引き起こしたアメリカ金融業界のトップたちは、税金によって助けられ、また多額のボーナスや給与を受取っている。苦境に陥った人々は、誰のせいでもなく、それはみなその個人のせいであり、何故そういう状況に陥ったかの本質を考えるよりも、ポジティブなことだけを考えて生きるのが最良の道だと教えるのがポジティブ・シンキングの一面だ。

 いま社会に蔓延している、ポジティブ・シンキング万能の考え方に一石を投じる本だ。



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