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2009年12月27日

『The Help』Kathryn Stockett(G.P. Putnam’s Sons)

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「60年代南部での白人と黒人の絆を描いた作品」


 アメリカ国内でもボストンで大学時代を過ごし、ニューヨークで多くの時間を過ごした私にとって、アメリカ南部は「もうひとつのアメリカ」と言っていいほどの文化的距離感がある。

 しかし、文学的にみるとアメリカ南部は優れた作家の宝庫だ。ウィリアム・フォークナー、バリー・ハナ、リチャード・フォード、そして私の好きなダン・ブラウン。人気作家ジョン・グリシャムも南部出身の作家だ。

 南部の州のなかでもミシシッピ州は、泊まりがけで作家や編集者それに本屋の店主にインタビューをした土地だ。

 その時の空気の重さ、熱さ、そして町の匂いをいまでも憶えている。

 今回読んだのは、そのミシシッピ州ジャクソンを舞台とした小説「The Help」だ。時代は60年代初頭。60年代初頭というと、サンフランシスコやニューヨークではフラワー・パワーが台頭した時代だが、南部のこの街ではいまだ保守的な価値観が主流となっている。

 物語は20代前半の白人女性スキーターと黒人のメイド、アイビリーンとミニーの語りで語られていく。

 スキーターは作家になりたいという夢を持ち、ニューヨークの大手出版社に連絡を取る。彼女の就職の希望はもちろん断られるが、誰も書かない問題を書けという助言を受ける。

 この返事をきっかけにスキーターは、白人家庭でメイドとして働く黒人女性たちがどういう気持で毎日を過ごしているかを聞き取り原稿にしようと決心する。彼女がこの決心をした理由のひとつは、幼い自分を育ててくれ、ある日突然彼女の前から姿を消した黒人メイド、コンスタンティンの存在があった。コンスタンティンは何故突然いなくなってしまったのか、またいかなる気持で自分を育ててくれていたのか、スキーターの心に解決できない謎が残っていた。

 一方、スキーターの既婚白人女友達たちのグループは、衛生のためと称して黒人メイドは彼女たち家のなかでも黒人専用トイレを使わなくてはならないという規則を提案する。

 そして、スキーターの原稿を手助けしてくれるのが、アイビリーンとミニーだ。もし、3人の関係が地元の白人に知れたら3人の生命さえ危うくなる。

 白人家族と黒人メイドの間は、憎悪と愛情の微妙な関係が存在している。その感情を描くことによって、人種を越えた人間としての普遍的な感情を表すことに成功している優れた小説といえる。ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー・リストにも長期間入っている注目の作品だ。


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2009年12月15日

『Superfreakonomics 』Steven D. Levitt & Stephen J. Dubner(Harperluxe)

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「経済学の視点でおもしろい結論を見せてくれる本」


 シカゴ大学にスティーブン・D・レヴィットという経済学の教授がいる。ハーバード大学を卒業し、マサチューセッツ工科大学で博士号を取った秀才だ。レヴィットはこれまで数多くの論文を書いてきたが、その内容がおかしい。曰く『ドラッグ売人ギャングの財務についての分析』(クオータリー・ジャーナル・オブ・エコノミックス2000年)、『黒人が黒人特有の名前をつける理由と結果』(クオータリー・ジャーナル・オブ・エコノミックス2004年)など、レヴィットは普通の経済学者とは違った視点で世の中を見ているようだ。

 彼はお金の動きというものにはあまり関心がなく次のように語っている。

 「経済のことはあまり知識がなく、数学もあまり得意ではない。計量経済学についても多くの知識はない。もし、これから株の市場が上がるか下がるか、経済が拡大するか縮小するか、デフレは良いか悪いかなど聞かれて、それに分かったような答を言えば嘘をつくことになる」

 レヴィットは変わり種の経済学者と言えるが、アメリカの学術界も懐が深く、そんなレヴィットにジョン・ベイツ・クラークメダルを贈っている。この賞は40歳以下の最も優れたアメリカ人経済学者に贈られる賞だ。また、レヴィットは、特定のデータから資金洗浄をおこなう者やテロリストの居場所をつきとめるようCIA(中央情報局)の依頼を受けたりもしている。

 そのレヴィトがジャーナリストのスティーブン・J・ダブナーと共著による本を出版した。タイトルは『SuperFreakonomics』。FreakonomicsとはFreak(風変わり)という英語とEconomics(経済)を合わせた造語だ。

 この『SuperFreakonomics』は2005年に同じコンビで出版された『Freakonomics』の続編となる。日本でも『ヤバい経済学』という邦題で翻訳されているのでご存知の方も多いだろう。

 前作では「学校の教師と相撲力士の共通点」「白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クランと不動産業者はどこが似ているか」「ドラッグ・ディーラーは何故母親と暮らしているか」などの命題に経済学の手法で興味深い答えを出している。

 今回の『SuperFreakonomics』でもレヴィットとダブナーは面白いテーマを追っている。まず「ストリートの娼婦とデパートに現れるサンタはどこが似ているか」という命題。

 本ではアメリカの歴史から、1890年代から1920年代の娼婦の収入を追っている。この時代娼婦はだいだい1週70ドルを稼いでいた。これを現在の価値に置き換えてみると年収7万6000ドルとなる。また、高級娼婦の家として名を馳せたエヴァリー・クラブに働く娼婦は1週400ドルを稼いでいたという。これはなんと今の年収の43万ドルに値する。何故、セックスの価値がこれほど高かったかというと、これは需要と供給の差にあった。当時、結婚の目的から外れセックスを許す女性は非常に少なく、一方、男性のセックスの欲求は、まあ、現代と変わらないと言っていいだろう。また、法律も娼婦だけを罰するもので、娼婦になることは社会的な将来を捨て、捕まる危険も一手に引き受けることを意味していた。

 その娼婦業界に価格破壊が訪れたのが60年代だった。社会的モラルの規制が緩くなり、フリー・セックスが声高に叫ばれた時代だ。世間には無料でセックスを提供する女性が多くなり、需要と供給の差が縮まった。娼婦たちにとっては一般女性(無料のセックス)という手強い競合相手が市場に出現したことになる。

 もし娼婦業界が他の業界と変わらなければこの時、農家や工業界が政府に訴えを起こしたように「娼婦保護法」を提唱し、一般女性からの無料セックスに歯止めをかける法案の通過を政府に訴えたはずだと著者は言う。しかしそんなことは起こらず、需要と供給のバランスは崩れ、現在ではシカゴ地区の統計によると娼婦との通常のセックスの値段は約80ドルだという。

 しかし、毎年7月初旬にその値段は一気に30%上昇する。その理由は、アメリカの独立記念日にあたる7月4日は人々が集まり、叔母の手作りのレモネードを飲むだけでは飽き足らない人々がセックスを求めて通りに出るからだ。

 これが先ほどの「ストリートの娼婦とデパートに現れるサンタはどこが似ているか」という命題の答えだ。答えはどちらもホリデイ・シーズンに需要が高まり、価値が高まるというもの。


 また、「自爆テロリストは生命保険をかけたほうがいい理由」の命題では、何故自爆テロリストが貧困の低所得層からではなく、ある程度の教育を受けた中産階級の出身者たちなのかを探っている。その答えとして自爆テロリストは選挙の際に投票をおこなう人々と同じ階層だと結論づけている。

 そして国外に潜む自爆テロリストは「家を持たない」「金曜日にATMから週末用のお金を引き出さない」「普通預金口座を持っていない」「モスリム系の名前である」そして「生命保険をかけていない」などの特徴があるという。そのため、自分がテロリストであることを見破られないためには名前を変え、家族に対する生命保険をかけることは有効であるとしている。

 そのほかにも「酒酔い運転と、酔って徒歩での帰宅とはどちらが危険か」「子供の生まれる月とその子供の将来の関係」「カンガルーを食べることで地球は救えるか」などの命題に経済学の視点からの興味深い答えを出している。

 優れた経済学者とジャーナリストの鋭い分析と巧みな文章により社会や人間の違った側面をみせてくれる、一般の人でも楽しめる本だ。



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2009年12月02日

『Tokyo Vice : An American Reporter on the Police Beat in Japan』 Jake Adelstein(Pantheon Books )

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「アメリカ人記者が追った日本の裏側世界」

 私は夜眠る時に、ラジオを聞きながらでないと眠れない。もう20年以上続いている習慣で、最近はポッドキャストで日本の放送も聞いているが、たいていは地元ニューヨークのラジオ局WNYCのトーク番組を聞いている。
 暗闇のなかでイヤフォンから流れるインタビュアーとゲストのやりとりを聞いているとだんだんと眠りの縁に近づいていく。

 10月の半ば、そうやってうとうとし始めた私の耳に「トキョー・ヴァイス」という言葉が聞こえてきた。その時、聞いていたのはブライアン・レーラーという司会者のトーク番組で、本を出版した作家をゲストに迎えることも多い。

 このトーク番組とレナード・ロペートの「The Leonard Lopate Show」は私の好きな番組で、最近はポッドキャスでも配信されている。夜または深夜にやるこれらの番組は昼間の再放送で、ポッドキャストのおかげでいつでも聞けるようになったのは大変うれしい。

ところで、日本に長く滞在しヤクザについての本を出した作家がゲストとなっていたその夜、残念ながらレーラーはそのゲストに対しては、上っ面な質問に終始していた。しかし、レーラーに不満を感じながらも、私はその本を買うことを決めた。

 それが今回紹介する「Tokyo Vice」。著者は93年から2005年まで読売新聞の記者を務めたジェーク・エーデルスタイン。

 彼はソフィア(上智大学)在学中に読売新聞社の試験を受け、正式に記者として採用され、最初は埼玉(ニュージャージー州と同じようなダサいイメージがあると著者は言っている)に配属された。しかし、その後、新宿歌舞伎町が彼の取材地域となる。
  
 本は大学時代に読売の入社試験を受けるところから始まり、読売新聞支社の様子や同僚、先輩記者の様子が時にはコミカルに描かれる。しかし、全体としては彼が事件を追うさまを描くハードボイルドな仕上がりの本となっている。

 この本の最大の面白さは、日本文化の裏側に外国人が奥深く入り込み、その様子を外国人の視点でレポートしているところだろう。法律では売春が禁止されている日本で、何故歌舞伎町のような場所が存在するのか。著者は、友人の外国人女性から話を聞き、東京でおこなわれている人身売買の調査を始める。また、六本木にたむろする外国人の世界も書いている。

 その一方で、日本の大物ヤクザが、アメリカ政府のブラックリストに載っているにもかかわらず、アメリカで肝臓移植手術を受けた。何故、そのヤクザがビザを取得でき、アメリカに渡ることができたのかを著者は調べ始める。

 「ゴトーはFBIに、山口組の組員、フロント企業、金融機関の包括的なリスト、それに北朝鮮の活動に関する情報の提供を約束した。その見返りにゴトーはアメリカのビザを要求した」

 肝臓移植手術を順番で待つ多くのアメリカ人を飛び越え、日本のヤクザが優先的に手術を受けたこの出来事はアメリカ大手テレビ局CBSのニュース・マガジン「60 Minutes」でも取り上げられ、エーデルスタイン自身も番組に登場している。

 鋭い調査と、文化の違い、そして人情や悲劇のやるせなさも味わえる本だ。




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