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2009年11月17日

『The Lost Symbol』Dan Brown(Doubleday)

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「疾走感溢れるダン・ブラウンの新作」

 「フリーメイソン、見えない大学、保安局、SMSC、そして純粋理性研究所を含むこの小説に登場するすべての組織は存在する。この小説で描かれるすべての儀式、科学、芸術作品、そして記念建造物は現実のものである)」
 2003年に出版された『The Da Vinci Code』の大ベストセラーから6年ぶりとなるダン・ブラウンの新刊は、物語が始まる前にこのように記されたページがある。

 ダン・ブラウンは前作で、記号、歴史、芸術、宗教、秘密結社の事象を組み合わせ、エンターテインメント性の高い読み応えのあるスリラーを作り上げた。

 6年を経た今回の新作の主人公も、前作同様ハーバード大学の宗教象徴学教授ロバート・ラングドン。つまりこれは、ラングドンを主人公とした『Angeles & Demons』、『The Da Vinci Code』に続く3作目となる。

 前作はキリストの聖杯の秘密をめぐっての作品だったが、今回はフリーメイソンが守る古代の謎が登場する。舞台はアメリカのワシントンD・Cだ。アメリカ建国に関わった多くの人々がフリーメイソンのメンバーだったことは周知の事実だろう。

 物語は、ラングドンが彼の助言者であるピーター・ソロモンの助手からのメッセージを受け、アメリカ合衆国国会議事堂内にある国立彫刻ホールでの講演をおこなう決心をするところから始まる。ピーターはフリーメイソンの重要メンバーでもある。

 急な依頼だったため、ラングドンはピーターが用意したプライベートジェットを使いボストンからワシントンD・Cに向かう。しかし、その日、講演などは予定されておらず、国会議事堂で彼の見たものは、切断されたピーターの手首だった。

 その手首の形と指に彫られた刺青は、古代の謎への招待を表していた。それは、ピーターの助手になりすました犯人からのメッセージであり、ラングドンは捕らえられたピーターを救い出すため古代の謎のありかを探そうと決心する。

 事件現場にはすでに、CIA保安局の局長である日系アメリカ人イノウエ・サトーが駆けつけていた(日本人としてはイノウエ・サトーという名前に違和感を憶えるが、これもある効果を狙っての名前つけ方となっている)。

 人類の歴史を変える力を持つといわれる古代の謎とは。何故サトーがすでに事件現場にいたのか。CIAの介入はアメリカ政府内部の動きを示唆するものなのか。ピーターを誘拐した者の狙いはなにか。ピーターはまだ生きているのか。

 謎が謎を呼び、ピーターの妹で人の意識と時間と空間の関係の研究をしているキャサリンも巻き込み、物語は展開していく。

 前作に劣らず、新作も疾走感溢れる優れたエンターテインメント作品だった。


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2009年11月10日

『Nurtureshock : New Thinking about Children』Po Bronson, Ashley Merryman(Twelve)

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「間違った子育ての常識と、新たな考え方」


 今、ニューヨークで小学2年生の息子を持つ親として、子供とどう接するかはいろいろ悩むところだ。息子は、3歳の時に言葉の発達が遅れているとされスペシャル・エデュケーションを受けていた。自閉症(オーティズム)の恐れもあるとされて、普通の幼稚園ではなく発達が遅れた子供たちだけのための園にも1年間通った。

 しかし、小学校入学前に人から勧められてギフテッド・クラス(知能が高く、才能がある子供たちだけのためのクラス)の試験を受け合格し、彼はスペシャル・エデュケーションのクラスから一転して英才クラスに通うようになった。言葉の方もいまはうるさいくらい喋っている。

 その数年間に、僕と妻の宮家あゆみは、ニューヨーク州保健局、セラピスト、幼稚園、州政府指定の能力評価員、ニューヨーク州教育局、先生などと渡り合い、いかに親として周囲の思惑や助言を取り入れたり、排除したりして、息子に最も適した環境を作り出して行くかを学んだ。セラピストのなかには、息子がいつまでも通っていた方がお金になるので、「彼の学習能力は進んでいるが、いまだに重大な遅れがある」というレポートを出して彼を手放そうとしない人や、州からの補助金の都合かどうかは分からないが「彼は普通の幼稚園では生き残れない」とする園長などと戦った。

 その時の問題は、人々が本心からそう言っているのか、自己利益のためにそのような評価をしているのかがはっきりしないところにあった。最後の決断はいつも、毎日息子の行動や言動に接していた、親としての「感」だった。

 という訳で、ニューヨークでの子育ては今も手探り状態なので、今回紹介する「NurtureShok」は大変面白く読めた。

 内容は、いままで正しいと信じられていた子供の育て方が、実は子供にとって悪影響さえ及ぼすことがあるという事象を、多くの調査結果をもとに紹介しているものだ。

 最初の章にでは、子供は褒めて育てた方がいいという育て方に疑問をてい呈している。特に「君は頭がいい」という一言。これは子供たちに自尊心や自負を植えつけ、その結果としてよい成績や人生を得てもらおうという考え方だ。しかし研究結果は、高い自尊心や強い自負を持つ子供の成績の方が、そうではない子供よりよいということはなく、またよい職業につくという結果にもつながらなかった。そのうえ、自尊心や自負と飲酒や暴力との関係も見られなかった。

 ニューヨーク市で5年生を対象とした調査では、一度あるやさしいテストを受けさせその結果に対し子供たちを「君は頭がいいからこのテストができた」という褒め方したグループと、「君はほんとうによく努力した」という褒め方をした2つのグループに分けた。そして、次に子供たちにもう一度テストを受けさせるのだが、この時、1度目のテストよりも難しい、しかしより調査の助けとなるテストと、1度目と同じくらいやさしいテストを受けることができる選択を与えた。結果は努力を褒められたグループの90%が難しいテストに挑戦し、頭のよさを褒められたグループの大半がやさしいテストを選んだ。

 大人から褒められることは子供たちにとってとても嬉しいことだ。そのため、頭の良さを褒められた子供たちは、頭がよく「見える」結果を求め、失敗を恐れたためにやさしいテストを選んだと考えられる。

 調査はさらに続き、3度目のテストでは中学1年レベルの問題を与え、全員がひどい得点になるようにした。ここでも2つのグループは、その結果の対応に違いがあった。努力を褒められた子供たちは、テストに集中していなかったと結論づけ、正しい答えを出せるようにいろいろ試すと答えた。そして、3度目のテストが「一番好きなテスト」だと答えた。一方、頭のよさを褒められたグループは、低い得点を目の前にして自分たちは本当は頭がよくなかったんだと落ち込んだ。

 そうして、4度目、最後のテストは1度目のテストと同じくらい簡単なものが与えられた。結果、努力を褒められた子供たちは約30%テストの平均点を伸ばした。一方、頭のよさを褒められたグループは約20%テストの平均点を下げた。

 この調査結果は、自分たちに成功の鍵を握る力があることを分からせることが重要だと教えている。頭のよさは生まれもっての資質であり、自分のコントロールがきかない。そこで、資質を頼りにした子供たちは失敗に直面したときの対処方法が分からなくなってしまった。

 結論としては、子供を褒めるときに子供たちのコントロールが利かない部分を褒めるのではなく、「頭脳は筋肉のようなもので使えば使うほど、頭がよくなる」ことと「よく努力した」ことを言うことで、子供の能力を伸ばすことができ、「生まれもっての頭のよさ」を褒めることは悪影響を及ぼすことがあるということだ。

 このようなこれまでの子育ての常識をくつがえす、あらたな考え方が「睡眠」「才能」「反抗期」「兄弟・姉妹」「学習教材」「自己コントロール」などの分野で調査結果をもとに示されている。

 子育てをおこなううえで、この本を読むと読まないのでは、大きな違いがあると想像できる本だ。



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