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2009年08月30日

『Days of Atonement』Michael Gregorio(Griffin)

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「厳冬のプロイセンを舞台にした歴史ミステリー」

 2年ほど前、取材のためニューヨークにある注文で本の革装丁をやる店を訪れた。映画監督のマーチン・スコセッシからソビエト連邦最後の政治指導者だったゴルバチョフまでがこの店に本の革装丁を頼んだという。
 僕はその店の地下でおこなわれていた装丁作業を見せてもらった。狭い作業所には革の表紙に模様をつける工具がところ狭しと並べらていて、古いもので18世紀頃のものもあった。

 その中に蜂の紋章をつける工具があり、そこの店主に蜂の紋章はナポレオンが個人的に好んで使っていたものだと教わった。

 店主によれば、労働を惜しまない蜂と自分の姿を重ね合わせたのだという。ナポレンはルイジアナをアメリカに売却した人物でもあるので、アメリカに住む僕には少し親しみを憶える人物だ。

 今回読んだ本は、そのナポレオンが絶頂の時期を迎えていた頃のヨーロッパを舞台にした物語だった。

 舞台となるのは1807年のプロイセン。1806年10月の「イエナの戦い」でフランスに敗北したプロイセンはフランスの占領下に置かれている。主人公で、哲学者カントから犯罪捜査を学んだ判事ハノ・シュティフェニースは、ある晩餐会でフランス軍大佐ラヴェドリンと犯罪捜査方法について議論を戦わす。

 数日後、子供3人が殺害され母親が行方不明になる事件が起こり、ラヴェドリンはシュティフェニースとの共同捜査を提案する。

 殺害された子供の父親が兵士として反仏運動の拠点地域にいるため、その地域へのフランス軍からの捜査を阻止するためにシュティフェニースは共同捜査に同意する。

 これが大きな設定となり、この歴史スリラーは進んで行く。

 シュティフェニースは単身父親の行方を捜査し、殺人事件の前にすでに父親が死んでいたことをつきとめる。不自然な死に方で、3人の子供と母親が行方不明となった事件の鍵は父親が死んだこの地にあると彼は確信する。

 一方、ラヴェドリンは事件のあった家に事件を解く鍵が隠されているとし、家を捜査の中心に置く。地元の人々は事件はユダヤ人の仕業だと騒ぎ出す。

 時にはカントの犯罪捜査手法を手助けにふたりは事件を解決しようと試みる。

 厳冬のプロイセンを舞台に二転三転する謎解きは最後まで緊張の糸が切れない物語だった。



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2009年08月09日

『At the Center of the Storm』George Tenet, Bill Harlow(HarperCollins)

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「元CIA長官が語るブッシュ政府の内幕」


 アメリカがイラク戦争を始めた頃、ブッシュ政権は戦争に対する国民の支持を得るため究極的なメディア操作をおこなった。

 それは、政府内の要人が戦争を正当化する情報をメディアに漏洩する一方で、テレビなどで政権の担い手がそのメディアの信憑性を楯に情報を操作する手法だ。

 その手法とはこうだ。例えば、 議事内容が秘密となる高レベルの政府会議で、イラクとアルカイダに強い繋がりがあるという見方もあると政府の高官が口にする、またはそれに近い内容のことを口にしたとする。

 その数日後には、その高官がイラクとアルカイダの関係を証明する発言をしたという情報になって大手新聞社の記者にリークされる。

 記者はこのリーク情報をもとに政府会議で高官がイラクとアルカイダに強い繋がりがあると発言したという記事を書く。記事自体はその繋がりが証明されたという内容ではないが、高官がそう発言したこと自体がニュースなので高官の発言記事として掲載される。

 その後、テレビに出た副大統領や国務長官が「大手新聞がイラクとアルカイダに繋がりがあるという報道をしている」と語り、自分たちの有利になる情報をメディアお墨付きの正しい情報としてしまうのだ。

 この一番の犠牲となったのが、元CIA長官のジョージ・テネットだ。彼は、大統領、副大統領、国務長官など数人だけが出席した会議で、イラクが大量破壊兵器を有し核兵器を持とうとしている情報は「Slum dunk(絶対だ)」 と言ったとされている。

 テネットのこの「Slum dunk」発言は新聞、テレビなどで大きく報道された。

 そのテネットは97年CIA長官に就任してから04年に組織を去るまでの活動を語った回想録を出版している。

 ほかでは知ることのできないCIAの活動や、ブッシュ政権との関わりなどが詳細に述べられている。テネットはこの本でいかに「Slum dunk」が全く違った意味となり、政権に利用されてしまったかを回想している。そして、ブッシュ政権は自分の発言などなくとも戦争をやることを最初から決めていたと語っている。

 「私の知る限り、イラクからの差し迫った脅威について政権内での真剣な議論は存在しなかった」

 「時には、戦争を始めてどのくらいの時期にイラクの通貨を変え、ディナール紙幣には誰の肖像を使ったら良いかなどの不可思議な細部にわたる議論がなされていた」

 テネットのこれらの言葉は、イラク戦争に限らず国が「戦争」に向かう時、情報がどう処理されていくかを教えてくれる。


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