« 2009年05月 | メイン | 2009年07月 »

2009年06月29日

『Anansi Boys』Neil Gaiman(Harper Torch )

Anansi Boys →bookwebで購入

「西アフリカの民話を織り込んだニール・ゲイマンの作品」


 幻想小説作家として確たる地位を築いた感のあるニール・ゲイマン。今回紹介するゲイマンの『Anansi Boys』は幻想小説という枠に入れることは難しい。

 この作品はもちろん幻想的であるが、スリラーでもあり、ロマンチックコメディでもあり、一家族のストーリーでもあるといえる。その上、主人公が自分の精神的成長に目覚める、いわゆる「カミング・オブ・エイジ」の物語でもある。

 物語はロンドンに暮らすファット・チャーリーが、結婚式に父を招くためフロリダに出かけるところから始まる。彼はフロリダで父が死んでしまったことを知らされる。

 しかし、彼が知るのは父が死んでしまったことだけではない。死んだ父は実は神だったのだ。父は蜘蛛の姿の神アナンシであり、ファット・チャーリーも神の血を受継ぐ子孫のひとりだった。

 最初は物語の展開のとっぴさに驚くが、独特の語り調と、ユーモアの冴える文章にいつしか著者の世界に引き込まれていく。

 ファット・チャーリーは一度ロンドンに戻るが、彼のもとにいままでその存在さえ知らなかった兄弟スパイダーがやってくる。父の持つ能力やいたずら好きな性格を受けついだスパイダーが現れたことでファット・チャーリーの生活は一変する。

 スパイダーはファット・チャーリーの婚約者と仲良くなり、ファット・チャーリーは横領の疑いで警察から追われる身になる。

(「スパイダーとはそんなに悪いの」とヒグラーさんは聞いた。「こう言えばいいかな」とファット・チャーリーは答える。「僕が思うに彼は僕の婚約者と寝ている。僕でさえもそんなことをしたことがない」)

 再びフロリダに戻ったファット・チャーリーは神の世界に入り込み、スパイダーを追い返すために、鳥の神の助けを求める。鳥の神が現れたことにより、物語は暗さを増し、ミステリー、ファンタジーの色彩が強くなる。

 また、一方でこの物語は、ファット・チャーリーの自分探しのストーリーでもある。ファット・チャーリーの魔法の旅は、自分のなかにある強さの発見や、本当に愛する人との出会いに繋がっていく。

 タイトルになっているアナンシとは、西アフリカで伝承される民話に登場する神のひとり。蜘蛛の形または人間の姿で登場する。

 古くから伝わる民話をテーマとし、ロンドン、フロリダ、そしてカリブの島が舞台となった物語は娯楽性の高い作品だった。


→bookwebで購入

2009年06月19日

『Peanuts: a Golden Celebration』 Charles M. Schulz(Harper Resource)

Peanuts: a Golden Celebration →bookwebで購入

「亡きシュルツと過去のアメリカを偲んで」


 先日、ある本を読んでいたら、スパーキーという少年のことが書いてあった。     スパーキーは中学生の時に数学、ラテン語、イングリッシュなど多くの教科で不合格となり、高校時代には女の子にデートを申し込むこともできなかった。

 卒業アルバムに得意の漫画を使ってもらおうとアルバム委員に渡すが断られ、卒業後も、ウォルト・ディズニー・スタジオに絵を送るが上手くいかなかった。スパーキーの周囲の人々は、彼は善良な男だが、ぱっとした人生は送らないだろうと思っていたという。

 この冴えないスパーキーが、1950年代から始まりアメリカの良心といわれるようになったコミック『ピーナッツ』の作者チャールズ・シュルツだった。

 ピーナッツの主人公であるチャーリー・ブラウンは、野球をやっては負け、凧を上げれば落ち、フットボールを上手く蹴ることさえできない。善良で冴えないチャーリー・ブラウンはスパーキーの少年時代をそのまま映している。

 中学生の時、通信簿の成績がオール3になって先生からよく頑張ったと言われ、クラスの書記に立候補しては落選し、積極性に欠けると評価を受け続けていた僕自身、日米の文化を超えてチャーリー・ブラウンに共感を覚える。

 シュルツは2000年の2月に、癌のために死んでしまった。彼はその数週間前に、『ピーナッツ』の連載中止宣言をしていた。亡くなった日は奇しくも、彼の最後の連載コミックが全米の二千を超える新聞に掲載された前夜だった。

 50年代から90年代までの『ピーナッツ』が集大成され、約千本のコミックが収められているのがハーパー・コリンズ社から発行されているこの『Peanuts: A Golden Celebration』だ。

 シュルツが飼っていた犬のスパイクがモデルとなったスヌーピーの当初の絵はもちろん、ルーシー、ライナス、ペパーミント・パティ、ウッドストックなどお馴染みのキャラクターが最初に登場した場面も見ることができる。シュルツ自身の説明も多く掲載されているので、何故そのようなキャラクターが生まれてきたのかも分かる。

 世界の多くの人々に親しまれた『ピーナッツ』の歴史を知ることができる重要な1冊だろう。


→bookwebで購入