« 2009年01月 | メイン | 2009年03月 »

2009年02月26日

『The Inheritance : The World Obama Confronts and the Challenges to American Power』David E. Sanger(Harmony Books )

The Inheritance : The World Obama Confronts and the Challenges to American Power →bookwebで購入

「オバマの受継いだアメリカ」


 1月20日にオバマ氏がアメリカの新大統領に就任し、8年間続いたブッシュ政権が終わった。この8年間でアメリカと世界の状況は様変わりし、オバマ氏が受継ぐアメリカは、ブッシュ氏がクリントン大統領から受継いだアメリカと比べるととてつもなく大きな問題を抱えている。

 今回紹介する本は、オバマ新大統領が直面する問題の大きさ、複雑さを書いた本『The Inheritance』。このタイトルとなっているInheritanceは英語で「相続財産」という意味。

 書き手はニューヨーク・タイムズ紙で長年政治・経済の記事を手がけてきたデヴィッド・サンガー。サンガーはかつてニューヨーク・タイムズ紙東京支局の支局長も務めた経歴の持ち主だ。

 ノンフィクションの書き方はいろいろあるが、この本でサンガーのとった手法は、テロリストに近い人間や街やストリートから情報を得るという形ではなく、アメリカ大統領、大統領の側近、政府の中枢にいる人物、それに世界のリーダーたちや彼らの補佐官たちのインタビューを通して現状を報告するというものだった。

 内容は大きく6つに分かれている。その6つとは、イラン、アフガニスタン、パキスタン、北朝鮮、中国、そしてサイバーテロ、薬物テロ、核物質テロなどの脅威。本の最後の部分となる各テロの脅威の部分はあまりに短すぎて、その前の詳細で迫力のある、国に目を向けたレポートに比べると補足的な感がいなめない。

 しかし、イランから中国までの各章は大変読み応えがある。本を貫いている姿勢は、ブッシュ政権が取ってきた「アメリカの力をもってすれば、アメリカだけの都合で世界を変えられる」という理論の批判だ。

 特にチェイニー副大統領陣営とブッシュ大統領がイラク戦争を押し進めたため、アメリカは国家として非常に苦しく危険な状況に陥ったとしている。

 イラクに手を焼いているあいだ、イランは核プログラムを大きく進め、パキスタンではアルカイダやタリバンが再び力をつけた。北朝鮮においては核実験をおこない(本当に核実験だったのからいまも議論の余地があるが)、中国はアフリカなどから石油供給ルートを確立させた。

 この本を読むとイラク戦争の真の勝利者はイラン、パキスタン、北朝鮮、中国などの国々だと分かる。

 「ブッシュにとって戦略の変更や敵との交渉は弱さを示す印だった」とサンガーは書いている。面子を保つためにアメリカが支払った代償は大きい。

 ブッシュ政権下の8年間、それぞれの国がいかに動き、アメリカがいかに対応したか国家レベルの話としてよく見える本だった。

                
                         



→bookwebで購入

2009年02月13日

『The Ascent of Money : A Financial History of the World』Niall Ferguson(Penguin)

The Ascent of Money : A Financial History of the World →bookwebで購入

「お金と社会の長い歴史」


 ニューヨークに住んでいると、大きな額のお金を実際に見ることが少ない。家のローン、電話代、電気代などはインターネットやチェックと呼ばれる個人小切手を使って支払いを済ませる。入ってくるお金も銀行振込か会社の小切手で送られてくる。

 日々のスーパーでの支払いも、例えば牛乳1パックでもカードを使い、マクドナルドやサブウェイなどのファーストフードの支払いもカード、地下鉄のメトロカードの購入にも自販機でカードを使う。本はインターネットで頼みこれの決済も登録してあるカード。そしてそのカードの支払いはインターネットで銀行の口座から直接引き落とされる。

 僕にとってのお金は、硬貨や紙幣から銀行口座の記録にある数字に代わってきている。お金はいつから姿を変えるようになってきたのか。そもそもお金という概念はいつどうやって生まれてきたのか。

 人類にとっての最大の発明は車輪だといわれているが、お金も人類最大の発明品のひとつだろう。そのお金、そして金融、市場というものの歴史を追った本が今回紹介する『The Ascent of Money』。著者はハーバード大学とオックスフォード大学で教鞭をとるニーアル・ファーガソンだ。

 この本を読むと、お金や金融の発展の歴史は社会の発展の歴史だと分かる。

 ファーガソンはまず、お金発展の歴史の始まりとして4000年前のメソポタミアに遡る。この時代、人々は羊毛や大麦の取引の記録として粘土で作った権利証を使っていた。この権利証には「この権利証を有する者は、収穫時に目方330の大麦を得ることができる」などの文字が記録されていた。この種の権利書は、譲渡可能な金融商品であり、すでにお金の発展が始まっていたことがわかる。

 またファーガソンは、イタリア・ルネサンスにはメディチ家の両替商としての成功が欠かせなかったことや、殺人者、博打ちだったジョン・ローという人物がフランス王室に取り入り作り出したバブル経済とその崩壊がフランス革命に繋がった経緯も追っている。

 そのほか、17世紀のオランダで生まれた株式会社の形態や、統計学の発達で可能となった保険システムの始まり、債券、担保証券などの歴史も記されている。

 「信用貸しと負債は、ほかの技術的革新と同様に文明の発展には重要なものだった。企業融資はオランダとイギリス帝国になくてはならない基礎だった」とファーガソンは記している。

 もうひとつ、興味深かったのはスペインの通貨と社会の歴史だった。スペインは大成功をしたヨーロッパの国だったが、あまりに成功し銀や金などが豊富にあったため、実際の通貨で莫大な支払いを賄うことができた。そのため、債券発行などという国としての金融システムの発達が遅れたという。

 お金の歴史を綴ったこの本は、もちろん現在にも通ずるもので、経済は常に流動的なものだと改めて理解できる本であるとともに、優れた歴史書でもある。



→bookwebで購入