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2008年10月26日

『The Black Hole war: My Battle with Stephen Hawking to Make the World Safe for Quantum Mechanics』Leonard Susskind(Little Brown)

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「スティーブン・ホーキングとの争いに勝利した回想録」


 宇宙のなかでぽっかりと穴を空けているようなブラックホール。中心には超密度に収縮された核となる特異点と呼ばれる点があり、この点に向かってすべてのものは吸い込まれていく。

 ブラックホールには引き返すことが不可能な点と呼ばれる仮説上のラインがあり、このラインを超えた情報は光といえども、もうブラックホールの外にでることはできない。ナイアガラの滝に近づいたボートが、あるラインを超えると滝壺に向かう流れのほうが強く、どんなに力一杯ボートを漕いでも滝壺に落ちる運命を変えられないのと同じ原理だ。

 ケンブリッジ大学の理論物理学者スティーブン・ホーキングはブラックホールは蒸発を続けやがて消滅するという理論を発表した。この学説は物理学界を驚かせたが、1976年にホーキングが発表した学説はさらなる物議をかもしだした。

 ホーキングが発表した新たな学説とは、ブラックホールに吸い込まれた情報は永遠に失われるというものだった。

 この学説に意義を唱えたのが、本書の著者であるスタンフォード大学のレオナルド・サスキンドだった。彼はオランダの物理学者ゲラルド・トフーフトと陣営を組み、ホーキンス陣営に戦いを挑んだ。

 従来の物理法則では情報は絶対に失われることはないというものだった。例えば、火に投げ込まれた書物なども、大気上に放出された情報と燃え残った情報を合わせ、燃えた過程をひとつも間違わず逆に辿ればその本が再び現れるという説だ。もし情報が永遠に失われてしまうなら、これまでの法則が間違っていることになる。

 この戦いはホーキング率いる相対論学者とサスキンドとトフーフトがタッグを組んだ量子論学者の争いでもあった。

 「ホーキングはアインシュタインの等価原理に信頼を寄せる一般相対性理論学者であり、トフーフトと私は量子物理学者である・・・」とサスキンドは本書のなかで述べている。

 争いの結果は2004年にホーキングが自分の学説の誤りを認め、サスキンド陣営の勝利に終わった。この本は、サスキンド自身がその勝利までの過程を描いたものだが、いかに勝利したかを理解するためにはひも理論、ホログラフィック理論、そのほかの理論や数式を知る必要がある。そのため、多くのページが図解入りでそれらの理論の説明に割かれている。

 勝敗の結果もさることながら、それぞれの理論が興味深く(何度読んでも僕では理解できないものもあったが)、宇宙の謎に思いを馳せることになる本だった。
  



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2008年10月20日

『McMafia』Misha Glenny(Alfred a Knopf)

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「裏社会の経済グローバル化」


 ニューヨークにいる僕のところに時々おかしなメールが送られてくる。送り主はアフリカに住むという人からだ。彼あるいは彼女は、アフリカの大富豪または王の息子や妻ということだ。最近父または夫が死んでしまい莫大なお金を残した。しかし、政治的事情からそのお金を受取ることができない。莫大な財産を当局から不当に没収されてしまう前にアメリカに移したいが、自分名義の口座では送金が不可能だ。その苦境を救って欲しいという依頼だ。

 移すお金は数百万ドルで、もし名義を貸してくれたら、そのお金は僕の手助け無しには受け取れないものなので、半分ずつにしようと送り主は言う。

 これはもちろん詐欺メールだ。話に乗ると、書類の手数料だとか銀行への手数料だとかで何万ドルも取られてしまう。

 この種のメールは、なかなか格調高い英文で書かれてあり、その文を読むのはおかしな喜びがある。

 僕のところに届くものはナイジェリアから発生した詐欺「419詐欺」(ナイジェリアの刑法番号からこの名前がついた)の変形したものだと、今回読んだ『McMafia』で知った。

 アメリカでの最近のベストセラーに経済のグローバル化を語った『The World is Flat』があるが、『McMafia』は裏の経済、つまり犯罪のグローバル化を語った本だ。

 著者は『The Fall of Yugoslavia』などの優れた本を書いた英国のジャーナリスト、ミーシャ・グレニー。彼によると犯罪グローバル化の始まりは旧ソ連の崩壊にあったという。

 旧ソ連の崩壊によりそれまで社会主義経済傘下にあった国々はそれぞれ民主化の道を進むことになった。

 多くの国はそれまで政府の組織内にいた秘密警察関係者や諜報員、国境警備隊、それに警察官などの大量解雇をおこなった。それらの国々の経済状態はよくなく、解雇された人々を雇い入れる受け皿はなかった。いく道を失った諜報、密輸、殺人、脅迫、情報組織作りのプロたちがそのまま組織犯罪の道に進んだのだ。

 また、自由経済に移った新たな体制のもとでは合法と違法の境がはっきりとせず、国も犯罪を取り締まる経験や資金もなかった。

 このような環境のもとで犯罪のグローバル化が急速に進んだ。なかには国家や政治家と結びつき、マフィア組織なのか正規のビジネス組織なのか区別がつかない大規模なものまで登場するようになった。

 この本では、東ヨーロッパでの売春取引や車の窃盗、カザックスタンでのキャビア・マフィア、カナダのマリファナ組織、中国の人身売買、日本のヤクザ組織、そしてナイジェリアの詐欺のことなどが、社会的、政治的、経済的背景などとともに語られる。

 「彼らはシェル石油、ナイキ、マクドナルドなどと同じように海外のパートナーを求めた」とグレニーは述べている。

 裏の経済の世界でも新たなグローバル化の波が押し寄せているのだと分かる本だ。



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