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2008年07月16日

『Blood and Champagne : The Life and Times of Robert Capa』 Alex Kershaw (Da Capo Press)

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「架空の写真家だったロバート・キャパ」

いま僕はコンピューターの画面に向かい、スクリーンに映っている一枚の写真を見ている。

「The Falling Soldier」というタイトルがつけられたその写真は、ひとりの兵士が頭を撃ち抜かれ、仰向けに倒れ込む、まさにその瞬間を捕えたものだ。撮影したのはロバート・キャパ。スペイン内乱、世界第二次大戦など戦場の様子を伝えたフォトジャーナリストとして世界的に名を知られた写真家だ。「The Falling Soldier」はキャパを有名にさせた彼の初期の作品だ。

 彼が生まれたのは一九一三年十月。しかし、不思議なことに一九三〇年代の半ば頃までロバート・キャパという人間は世界中のどこにも存在していなかった。

 僕がキャパの名前の秘密を知ったのは、今回紹介するロバート・キャパの伝記『Blood and Champagne』からだった。キャパの本名はアンドレ・フリードマン。ハンガリー出身のユダヤ系。フリードマンは最初キャパに雇われている助手というふれこみだった。

 話は少しややっこしい。

 キャパは、当時パリに住んでいたフリードマンと彼のガールフレンドが作り出した想像のカメラマンだった。彼らが作り出したキャパという人物像は「有名なアメリカの写真家で、大変な金持ち、たまたまヨーロッパに来ている」「凄い写真を撮るが金に困っていないので写真の値段は高い」というものだった。

 ナチスから逃れ国を出て、まだ名前もないフリードマンにはカメラマンとしての仕事が少なく、もしあったとしても写真を高く売ることができない。それならばと考えだされたのが架空の写真家ロバート・キャパだった。売り込みはうまくゆき、フリードマン/キャパの撮った写真は通常料金の三倍から五倍で売ることができ、仕事の依頼もきた。キャパの名前が売れてくると、フリードマンは自分の名前を捨て、そのままキャパと名のるようになった。架空の写真家のほうに実在する人間が吸い取られた形だ。

 この本は、作家ヘミングウエイやスタインベック、映画監督ジョン・ヒューストンとの交友、また女優イングリッド・バーグマンとの恋、それにフォトエージェンシー「マグナム」の設立など、人生を情熱的に生きたキャパの生涯を追っている。

 写真家として常に戦争を追いかけ、ギャンブルにのめり込み、女性が好きだったキャパ。一方では、先ほどの「The Falling Soldier」が実は兵士に頼んでポーズを取ってもらったもの、いわゆる「やらせ」写真ではないかという議論がいまも続いている。

 キャパは一九五四年、まだアメリカ軍が介入する前のベトナムに赴き、地雷を踏んで死んでしまう。四〇歳という若さだった。フォトジャーナリズムの世界に衝撃を与え続けたキャパの魅力溢れる人柄と人生を、緻密な調査により伝えてくれる本だ。

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