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2008年06月28日

『Leonardo’s Swans』Karen Essex(Broadway Books)

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「エステ家姉妹とダヴィンチを描いたロマン溢れる作品」

 以前、フランスの南部を旅していたとき、イタリアとの国境の近くのビーチに行ったことがある。華やかながらも落ち着いた感じのあるビーチで居心地が良かった。翌日、イタリア人が多く来るというビーチに出かけてみると、ビーチは派手な雰囲気が漂い、男たちは金の鎖を首に巻き、女たちは大胆なカットの水着を着ていた。「国民性の違い」という言葉を頭に浮かべながら、長い間若いイタリア人女性を目で追っていた。

 ヨーロッパはいろいろな国家が勢力争いを繰り返した長い歴史があり、その間にルネサンスのような華やかな時期も経験している。その長い歴史にロマンを感じるのは僕だけではないだろう。

 今回、読んだ本は、レオナルド・ダヴィンチが創作活動をおこなっていたルネサンス期のイタリアを舞台とした、史実に基づいた小説だ。主人公はイタリアでまずまずの勢力を誇るエステ家の娘イザベラと妹のビアトリーチェ。イザベラは16歳でエステ家と同じくらいの勢力を持つゴンザーガ家のもとに嫁いでいく。

 その1年後、妹のビアトリーチェは大勢力を持つミラノの実権を握っているルドヴィーコ・スフォルツァと結婚する。この結婚はいわくつきで、もしルドヴィーコが1カ月早くエステ家との結婚を申し込んでいたら、ビアトリーチェではなく、イザベラが結婚をしていたところだった。つまり、姉イザベラが貧乏くじをひいた形となった。この史実が物語の大きな設定となり、ふたりの姉妹の心が描かれていく。

 当時ミラノには、ルドヴィーコに招かれ画家、彫刻家、科学者、建築家として仕えていたレオナルド・ダヴィンチがいた。ダヴィンチの作品を目のあたりにしたイザベラは、どうにかして彼に自分の肖像画を描いてもらおうと策を練る。

 しかし、レオナルドは当主から依頼された作品には手をつけず、自分の興味おもむくままに時間を費やす。

 「If I ask for a portrait, for instance, he will not simply sit the subject in a lovely ray of light like other painters. No, he does not even pick up the brush, but spends years lost in the study of light itself.(俺が、例えば、あいつに肖像画を描いてくれと頼むと、あいつは他の画家のように描かれる人物をただ明るい日の光のなかに座らせるようなことはしない。いいや、あいつは絵筆さえ取らずに、光そのものの研究に何年もの時間を費やしてしまうんだ)」と嘆くルドヴィーコの言葉が面白い。

 ダヴィンチという偉大な芸術家を抱えるルドヴィーコ家に嫁いだ妹。ゴンザーガ家 に嫁いだ姉。ダヴィンチの目に止まった女性はどちらだったのか。そうして、家々がイタリアの覇権争いを続けるなか、ふたりの姉妹は何を思い、どんな行動を取ったのか。15世紀終わりのイタリアで起こった勢力争いを舞台に、ダヴィンチとふたりの姉妹の生涯を描いたロマン溢れる作品だった。



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2008年06月21日

『Armageddon in Retrospect』Kurt Vonnegut(Putnam)

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「さよならカート・ヴォネガット」

僕が初めてカート・ヴォネガットに会ったのは2000年のことだった。
その時僕は『Grand Central Winter』を出版した作家リー・ストリンガーから本のリーディングをやるという連絡を受けていた。ストリンガーはその時までに2度ほどインタビューをした作家だった。

セブン・ストーリーズ・プレスというニューヨークにある独立系出版社主催のそのリーディングに出かけると、ストリンガーと一緒に並んでいたのがヴォネガットだった。

セブン・ストーリーズ・プレスは小さいながらもカートとマークのヴォネガット親子の作品を出版している。

ストリンガーがリーディングをした本は『Like Shaking Hands with God』という本で、「A Conversation About Writing」という副題がついていた。つまり書くという行為について作家が語った本だ。語るのはストリンガーとヴォネガットのふたりの作家だった。僕はリーディングが終わったあと、ヴォネガットと5分ほど話をした。しかし、彼は終始不機嫌そうで、僕はすぐに会話につまってしまったことを憶えている。

縁とは不思議なもので、いま息子が通っているプリスクールのクラスに、セブン・ストーリーズ・プレスの発行人の息子も通っていて、僕たちは時々顔を合わせる仲となっている。

ところで今回紹介する本は昨年4月11日にこの世を去ってしまったヴォネガットの未発表の作品を集めた『Armageddon in Retrospect』

内容は第二次世界大戦でドイツ軍の捕虜となったヴォネガットがフランスの赤十字クラブから父に宛てた手紙や講演のために用意した原稿(日付が4月27日となっているので、この原稿は読まれることはなかったのだろう)、そのほか短編などの作品が収められている。

息子のマークが担当したイントロダクションには、ヴォネガットの複雑な人間性がよく描かれている。

薬を大量に飲んで病院に収容されたヴォネガットに、精神分析医は抗鬱剤を投与しようという。ヴォネガットはすぐに他の患者と仲良くなり楽しそうにピンポンなどをしている。

「He doesn’t seem to depressed(そんなに鬱じゃないようだ)」とマークは答える。

「He did try to kill himself(彼は自殺しようとしたんですよ)」と医者は言う。

「It’s very hard to say what Kurt is. I’m not saying he’s well(カートがどういうふうかを言うのは難しい。元気というわけじゃないんだけどね)」とマークは言う。

楽天的な厭世家、自分の内面に目を向けた外交的な作家ヴォネガットの作品はやはり感じるものがあった。この本には彼のアートワークも収められている。

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