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2008年04月28日

『A Sound Like Someone Trying Not to Make a Sound』John Irving(Bloomsbury Publishing Plc)

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「ジョン・アーヴィングが書いた絵本童話」


1942年ニューハンプシャー生で生まれたジョン・アーヴィング。これまで『ガープの世界』、『ホテル・ニューハンプシャー』、『第四の手』などの傑作を発表。映画化された『サイダー・ハウス・ルール』では自ら脚本を書きアカデミー賞最優秀脚本賞を受賞している。日本でも多くのファンがいる。


僕自身は彼が書いた『The Hotel New Hampshire』を読んで好きになった作家だ。


そのジョン・アーヴィングが書いた絵本童話が今回紹介する『A Sound Like Someone Trying Not to Make a Sound』。この話はもともとアーヴィングの9作目の作品『A Widow for One Year(未亡人の1年)』のなかに出てくる物語だった。主人公のひとりが童話作家という設定だった物語のなかでアーヴングが用意した童話だ。


童話のもともとのアイディアは、3人の子供の親であるアーヴィングが自分の子供を育てるなかから生まれたものだ。インタビューでアーヴィングは次のような話をしている。


あるとき、アーヴィングは古い家を借り家族としばらくその家で暮らした。しかし、家の配管が古いためバスルームにある蛇口をひねると、水がきちんと流れだす前の数十秒間、パイプがもの凄い音をたてた。


この音は子供たちを怖がらせた。アーヴィングは子供たちにその音は「ウォーター・パイプ(水の配管)が鳴っているだけだ」と説明したが、子供たちはそのバスルームに近づこうとしなかった。


数カ月後、アーヴィングは半人半獣の怪物が出てくる絵本を息子のひとりに読んであげていた。怪物の絵を指さして「これはなんだ?」とアーヴィングが子供に聞くと、子供は「これがウォーター・パイプなの?」と答えたという。


大人が説明したつもりになっても、その言葉の意味をまだ知らない小さな子供は、その言葉とは違うものを想像してしまう。


『A Sound Like Someone Trying Not to Make a Sound』にも夜中に家のどこかから聞こえる音に脅えるトムという子供が登場する。トムには2歳になる弟のティムがいる。トムはその音の正体を探して家を歩き回り、父親を起こす。父親はその音をネズミが走り回る音だと言う。トムは父親の言葉に安心して眠るが、その話を聞いた幼いティムは「ネズミ」というお化けが家のなかを這い回る姿を想像して眠れなくなってしまう。


絵を担当したのはタチャーナ・ハウプトマン。ヨーロッパで多くの絵本の絵を書いてきた画家だ。


アーヴィングがこの話をもとに絵本童話を出版してくれたことは読者にとってラッキーなことだといえる。アーヴィング自身、自分は童話作家ではないので、もう童話を書くつもりはないと語っている。この本が、アーヴィングが書く最初で最後の絵本童話になる可能性はとても高い。アーヴィングのファンや絵本童話が好きな人には絶対お勧めの本だ。

 



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2008年04月12日

『The Future of Life』Edward Wilson(Vintage Books)

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「美しい英文と興味深い題材が魅力の本」

僕がアメリカやイギリスの本を本格的に原書で読むようになったのは、ボストンにある大学に入ってからだった。アメリカの大学に入ったので、当たり前といえば当たり前だが、教科書や課題書籍、それに好きで読む文学作品やノンフィクション作品など手当たり次第に英語を読んだ感じがある。初めは辞書を片手に読んでいたが、なにしろ量が多いので分からない言葉をいちいち調べていたのでは間に合わない。それに、辞書を引いて文章に戻るという作業を繰り返すと、読んでいるものが面白くなくなってしまうことが多かった。

分からない部分はすっ飛ばして、なにしろ読み続ける。僕の本格的な洋書の読書はそんなふうに始まった。そうして、大量の洋書を4年間も読み続けているうちに、僕はいつしかかなり英語を読めるようになっていた。

大学の4年間を通して、日本語の本はたぶん数冊しか読まなかったはずだ。それはいまも変わらず、読むのは圧倒的に英語の本が多い。

大学時代に読んだノンフィクションで特に面白かったのは、スティーブン・ジェイ・グールドやリチャード・ドーキンスなどが書いた自然科学系の本だった。

今回紹介するのは、ハーバード大学の生物学者であり、2度もピューリッツア賞を受賞しているエドワード・ウィルソンの『The Future of Life』だ。

この本は表紙からして洒落ている。黒いバックに白の文字でタイトルが書かれてある一見堅い感じの表紙だが、覗き穴があいていてそこにすでに絶滅してしまったコスタリカに生息していたカエルのイラストが見える。表紙を開くと、17世紀のオランダ絵画を真似た美しい絵が続く。その絵に描かれている60を超える動物や植物はすでに絶滅してしまったもの、あるいは絶滅の危機に瀕している種だ。

ウィルソンはこの本で自然の大切さを語っているのだが、どこかの環境団体のようなヒステリックな調子はない。

人類の今世紀における挑戦は「先進国がいまの生活水準を保ちながら、貧困にあえぐ国の人々の生活を向上させることだ」とウィルソンは語る。そのためにも自然は大切だと強調する。何故なら、ひどい環境のなかで幸せになれる人間はいないからだ。著者は数々の例をあげ、もし人間が知恵を絞り、正しい選択をするならば、経済的にも自然環境的にもよい社会を創り出せるとしている。

本のなかには、僕の住むニューヨーク市についての記述があった。ニューヨークの水は良質とされているが、90年代の終わりには水源があるニューヨーク州北部の森が破壊されはじめ水質が悪化した。水質維持のためには70億ドルをかけて浄化施設を建設する必要があった。そのうえ施設の運営には年間3億ドルの費用がかかる。
 選択を迫られたニューヨーク市は、浄化施設を建設するのではなく、債券を発行し10億ドルで森自体を買い上げ、森の自然を守ることに力を入れた。この賢い政治判断の結果、森の自然は守られ、ニューヨーク市は大きな経済的負担をおわずに済み、市民たちは良質な水と美しい森を手に入れた。自然を守ることが経済的に安上がりで、環境にもよいことを示す実例だ。

この本には内容の面白さのほかにもうひとつの魅力がある。それは、この本がとても美しい文章で書かれてあることだ。読み物としても興味深く、英語の文章の美しさも味わえる。自然科学が好きな人や、美しい英文を味わってみたい人にお勧めの本だ。



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