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2008年01月23日

『I Feel Bad About My Neck』Nora Ephron(Alfred A. Knopf)

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「ニューヨーク仕込みの乾いたユーモアが楽しめる本」

「If I can just get back to New York, I’ll be fine.(もしニューヨークに戻ることさえできたら私は大丈夫)」
『恋人たちの予感』、『巡り逢えたら』、『ユー・ガット・メール』、『奥様は魔女』などの映画で監督や脚本、原作を手がけたノーラ・エフロンの『I Feel Bad About My Neck』を読んでいて彼女のこの言葉を見つけ、そうだそうだと嬉しくなった。僕はいまニューヨークに住んでいるが、この街に特別な愛着を感じる人間なら、ニューヨーク以外の街に住んだときにこう感じるはずだ。

ノーラ・エフロンは映画に関わる以前は作家であり、その前は『ニューヨーク・ポスト』のレポーターだった。

この本は、60歳を超えた彼女がニューヨークに暮らすことと、この街で年をとっていくことについての本音を綴った15エッセーが収められている。

最初の言葉は、彼女が子供の頃にロサンゼルスに移ったときのもので、明るい日の光が差すビバリーヒルズの学校の片隅で彼女が思っていたことだ。

彼女の言葉に頷くのは、僕自身ロサンゼルスに2年間住んだことがあり、あのだだっぴろい街で陸に打ち上げられた魚にでもなったような息苦しさを感じた経験があるからだ。荷物をまとめて、ニューヨークに戻りたくて仕方なかった。そうして、本当にUホールのトラックに家財道具を詰め込んで、大陸横断をしてニューヨークに戻ってきてしまった。

「ニューヨークに戻ることさえできたら、僕は元気になる」と本気で思っていた。

ノーラ・エフロンはこの本のなかでニューヨークのいろいろな場所のことを書いているが、彼女が長く暮らしたアッパー・ウエストサイドの話が特に面白い。

彼女は1980年、子供を生むと同時に離婚をし、アッパー・ウエストサイドのアパートメントに恋してしまう。そこは賃貸アパートメントだったが、賃貸契約を引き継ぐ権利を得るためだけに2万4000ドルもの大金をもともとの住居者に支払う(ニューヨークでキー・マネーと称される費用だ)。こんな高額な費用を支払う彼女の理論は、もしその「恋する」アパートメントに24年間住んだとしたら、2万4000ドルは1年間で1000ドル。1日にするとたった2ドル75セントで、スターバックス(当時はまだスターバックスはないのだが)のカプチーノ代より安い。

もちろん、キー・マネーはそれまでの住居者に支払うお金なので、これに家賃がかかってくる。家賃契約を引き継ぐだけで2万4000ドルの出費はどう考えてもまともな金額ではない。
彼女も、それは分かっている。彼女は、この話を不動産の話ではなく愛の物語だとしている。

「これは、つまるところ、お金に関する物語ではない。これは愛についての物語だ。そして、すべての愛についての物語のように、お話はある種の正当化から始まる」

このあたりの感受性に僕はニューヨークの街の物語を感じた。

この愛の物語は、その後の不動産ブームのなかで家賃が跳ね上がり、ついには「恋する」アパートを出ていかざるを得なくなるという悲しい結末を迎えてしまう。

ニューヨーク仕込みの気の利いた、そして乾いたユーモアが光るノーラ・エフロンのエッセーは清涼感に溢れていた。そしてノーラ・エフロンの「声」が女優のメグ・ライアインの顔とだぶってしまうのは、やはり映画のせいなのだろう。



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2008年01月12日

『The Thousand Splendid Suns』Khaled Hosseini(Riverhead Books)

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「アフガニスタンを舞台に繰り広げられる愛と勇気の物語」

 『ニューヨーク・タイムズ』紙のベスセラーリストに100週間以上も留まった小説『カイト・ランナー』を書いたアフガニスタン出身の作家、カーレド・ホッセイニの第2作目の作品がこの『The Thousand Splendid Suns』。『カイト・ランナー』の方はスピルバーグ率いるドリームワークスにより映画化され好評を博した。

 第1作目があまりに売れた作家は、前作は凌ぐ作品を書くことを読者から要求される。そうでなければ、最初の作品はただのまぐれで、その作家に本当の才能は無かったのだと判断されてしまう。そのため前作がベストセラーになった作家にとって、次の作品の出版は危険であり、作家としての運命の分かれ目となる。

 大ベストセラーとなった『マディソン郡の橋』を書いたロバート・ジェームズ ウォラー、80年代に『ニューヨークの奴隷たち』を出版したタマ・ジャノヴィッツなどは前作の重みをはね返すことができなかった作家といえるだろう。 最近では、『Prep』を出版したカーティス・シテンフェルド、『バーグドルフ・ブロンド』のプラム・サイクスなどがやはりそれぞれの話題作を超える作品を書いていない。

 そんなことを意識しながら読んだホッセイニの作品だったが『The Thousand Splendid Suns』は前作を凌ぐ作品といえるできだった。

 物語の舞台は旧ソ連軍が侵略を続ける時代から、内戦によりタリバンが台頭しアメリカの攻撃で新たな政府が誕生するまでの約30年間のアフガニスタン。主人公は、この動乱の時期を生きたマリアムとライラというふたりの女性だ。裕福な男性が3人の妻以外の女性に生ませた子供であるマリアムは15歳で40歳の男の妻になる。男はマリアムに暴力をふるい、人間としての彼女の自由を奪う。

 18年間の子供のできない結婚生活のあと、男は爆撃により両親を失った14歳のライラを妻にすることに決める。両親を無くしたライラは自分の妻にならなければ娼婦になるほか生きる道はないと男は言う。ライラはすぐに子供を産むが、それは彼女のボーイフレンドだった青年の子供だった。そうして、最初は敵同士だったマリアムとライラは心を通わせ始める。

 残酷な場面もある物語だが、ホッセイニの描くアフガンスタンの風景は美しい。勇気、愛、信頼、家族などに人間はどう向き合ったらよいかを教えてくれる作品だ。



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