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2007年09月29日

『Wonderful Tonight』Pattie Boyd(Harmony Books)

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「いとしのレイラよいつまでも」


パティ・ボイド。彼女のためにジョージ・ハリソンが「サムシング」を書き、エリック・クラプトンが「いとしのレイラ」を歌った。

僕は、ビートルズの映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」でイギリスのスクールガール役で登場した彼女の可愛らしさをいまも忘れられない。ビートルズの4人が電車に乗って移動する場面に出て来たのだと記憶している。そのほか、映画ではないが、ビートルズがスタジオで整髪してもらっている想定で撮影された写真で、彼女はジョージの後ろに座っている。まだ、中学生だった僕は、その写真を見て(ビートルズはこんな綺麗な女性たちに髪を切ってもらっているのだ)とうらやましく思ったことを憶えている。

その後、彼女はジョージ・ハリソンと結婚し、ジョージの友人であったエリック・クラプトンと結婚をした。ジョージとクラプトンとパティ・ボイド。ロック界で最も有名な3角関係の中心にいたパティがやっと彼女からみた物語を書いた。

パティは1944年3月17日に生まれた。この日がちょうど聖パトリック・デイだったため、彼女はパトリシアという名前になった。この自伝は、パティの両親の結婚の話から始まる。パティが4歳の時、両親は母方の両親が暮らすケニヤに移っていく。パティは子供時代をアフリカで過ごしたのだ。これは少し驚きだった。

両親は夫の浮気が原因で離婚をし、パティは冷たく厳しい義父の元で暮らす。しかし、義父は母親の親友と浮気をし、母親と義父も離婚をしてしまう。17歳になったパティは、ロンドンのサウスケンジントンにふたりの女性と一緒にアパートを借りビューティ・サロンで働き出す。

パティはこの仕事をきっかけに、モデルとなり『ヴォーグ』誌などのページを飾ることになる。そうして、テレビ・コマーシャルの仕事を経て映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」のスクールガール役に抜擢される。

この本によると、ジョージはパティに出会った日に結婚を申し込んでいる。それは多分、彼女をデートに誘うための冗談だったのだろうが、ジョージが彼女に一目惚れだったことが分かる逸話だ。当時、パティにはカメラマンのボーイフレンドがいたので、ジョージの結婚の申し込みもデートの申し込みも断ってしまう。それを友人に告げると、パティはみんなから「あなたはどうかしている」と言われる。パティはすぐにカメラマンのボーイフレンドを振って、2度目にジョージに会った時にデートをする。

こうして、パティはジョージのガールフレンドとなり、ビートルズとロックの世界に入っていく。

パティはこの自伝のなかで「私たちの世代が革命を導いた」と言っているが、それは間違いない。パティと年齢では10歳くらい違う僕らの世代は、その革命を突き進む彼らの姿を憧れを持って見つめ、後を追った。

ジョージと出会ってからのパティの生活はいわゆる「セックス・ドラッグ&ロックンロール」の世界だった。ジョージとリンゴの妻との浮気、ロックスターに近づけるならいつでも服を脱いでみせるグルーピーたちの存在、LSD、マリファナ、そうしてレコーディングやツアーなどは女性が入り込めない男の世界だ。

ジェットコースターに乗ったような高揚と鬱の間を行き来する生活のなかで、エリック・クラプトンが彼女を追いかける。クラプトンは一時、パティの妹ともつき合っていた。

パティは、ある時点でジョージの元を離れクラプトンの元に走るのだが、ロンクンロール的な生活は変わらない。クラプトンやジョージが自分に愛の歌を捧げるが、それらの歌は「結局わたしのことではなく、自分のことを歌っている」とパティは言う。自分の存在意義はどこにあるのだろうかと彼女は考える。ジョージやクラプトンは、自己表現をおこない、女性とつき合いセックスもして、時間も好きに使い、ドラッグもやり、音楽仲間もいる。振り返ってみて、自分は偉大なミュージシャンの妻という立場だけなのだろうかと思い悩む。

この本を読むと、パティ自身は物書きでないことが分かる。最初は、文章の繋がりの悪さ、話題の飛び方などが気になるのだが、読み進めていくうちに、ロン・ウッド、ミック・ジャガー、ボブ・ディラン、プレスリー、ジョン、ポール、リンゴ、ジョージ、クラプトンそれに彼らのガールフレンドや妻たちが登場する華やかさ、生活の荒れ方、決断の重さなどの物語が胸に迫り、文章の流れなど気にならなくなってしまう。これが時代を切り開いたスターの力なのだろう。パティ自身より、彼女を取り巻く状況に心が震えるのは仕方のないことだろう。

60年代、70年代に青春を迎えた人々、ビートルズやクラプトンの音楽に影響を受けた人々。僕を含むこれらの人々にこの本は甘く、切ない郷愁を与えてくれる。そうして、パティという波乱に富んだ人生を送った美しい女性の物語に最後は甘酸っぱい感動を憶える。

ひとつの時代の真ん中で生きたパティが自伝を書いてくれたことに感謝したい。



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2007年09月16日

『On the Road--The Original Scroll』Jack Kerouac(Viking)

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「アメリカ文学史に残る『On the Road』のオリジナル・スクロール版」

僕はアメリカ文学を取り巻く状況や、アメリカで出版される洋書の紹介雑誌『アメリカン・ブックジャム』を出してきたが、記念すべき創刊号のタイトルは『On the Road』だった。これは、「まだ、道なかばで行き先の知れない」という思いからだったが、ビート世代を代表する作家ジャック・ケルアックに敬意を表する気持もあった。

その後、ウィリアム・バロウズの編集者にインタビューをしたり、ギンズバーグ財団に雑誌企画の相談に乗ってもらったりとビート世代の人々と知り合うようになった。また、ビート・ジェネレーションの詩人グレゴリー・コーソから書き下ろしの詩をもらい、ケルアックが『 On the Road』に書いたサンフランシスコを本の道順のとおりに再び辿ってみる企画もやってみた。

今年は1957年に出版された小説『On the Road』が出てからちょうど50年目にあたり、出版50周年を記念してケルアックが書いた小説『On the Road』の原型となる第1稿が出版された。

ケルアックは47年頃から小説の構想を練りながらニール・キャサディなどとともにアメリカを旅して回った。そして51年4月、ニューヨークの20丁目にあったアパートで約3週間をかけて小説『On the Road』のもととなる原稿を書いた。今回出版されたのはこの時の原稿だ。ケルアックはトレーシングペーパーにタイプを打ち、そのペーパーをつなぎ合わせ丸め、一巻の巻物のようにした。そのためこの原稿は一般に「スクロール」と呼ばれている。

「スクロール」版と6年後に出版された小説『On the Road』との最も大きな違いは、「スクロール」版が基本的にノンフィクションであるところだ。

読者にとって特に心躍るのは、小説では偽名となっている登場人物たちが、ニール・キャサディ、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズなど全て実名で登場するところだろう。ビート世代を代表する彼らの実名が出てくることで、人物像がぴたりと定まり小説とは違ったダイナミックさが生まれている。

また、ストーリーも荒削りで、性的描写もきわどさを増している。「スクロール」にはケルアック自身が直接書き入れた修正や校正などが残っているが、今回出版されたものでは、あきらかなスペリングの間違いに対する直しを除いては加えられた修正や校正は無視し、できる限りオリジナル原稿に近い形に編集されている。そのため、薬物でハイになりながら書かれたといわれている文章から、当時ケルアックの持っていた疾走感や言葉に対する感覚が読み取れるのも興味深い。

51年5月、ケルアックはニール・キャサディ宛に手紙を送っている。「Story deal with you and me and the road…whole thing on strip of paper 120 foot long…just rolled it through typewriter and in fact no paragraphs…rolled it out on floor and it look like a road.(君と俺とロードについての物語だ。すべては120フィートの細長い紙に書かれている・・・タイプライターから流れ出てパラグラフさえないんだ・・・床に伸びてロードのように見える。)」

本の冒頭にケルアックの研究者たちによる解説があるのも見逃せない。アメリカ文学史に残る重要な一冊だ。


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2007年09月03日

『Sammy’s House』Kristin Gore(Hyperion)

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「アル・ゴアの次女が書いた政治ラブ・コメディ」

 ハーバード大学卒業。在学中に大学ユーモア雑誌『ハーバード・ランプーン』誌の編集長を務める。そして、エディー・マーフィーやトム・ハンクスなどを輩出したTVコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』のライターとしてエミー賞候補となる。

 この経歴の持ち主が元アメリカ副大統領アル・ゴアの次女であるクリスティン・ゴアだ。この本は彼女が著したホワイトハウスを舞台とした政治ラブ・コメディ。主人公は副大統領の下で医療関係のアドバイザーとして働く20代の女性サマンサ・ジョイス。軽快なノリと女性ならではのユーモアが魅力の本だ。

 クリスティンがサマンサを主人公とした政治ラブ・コメディを書くのはこれが2冊目。最初の作品は上院議員ロバート・グレイの元で働くサマンサの物語『Sammy’s Hill』だった。この作品はニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに入り、コロムビア・ピクチャーズが映画として上映する予定だ。

 今回の『Sammy’s House』はロバート・グレイがアメリカ合衆国の副大統領に選ばれ、それに伴いサマンサもホワイトハウスで大統領であるワイ政権の中で活躍をするという設定だ。

 物語は誕生したばかりのワイ政権が開催した船上パーティの場面から始まる。退屈なパーティはストリッパーの登場で雰囲気が一変する。誰が考えても政府のパーティにストリッパーはまずい。下品な音楽がステレオから流れるなか、大統領の首席補佐官がストリッパーの身体を自分のジャケットで覆う。しかし、その間にカメラのシャッターが切られる。プレス関係者は乗船していないが、この騒動は珍事としてメディアに漏れるのは間違いない。ストリッパーは「私はエクスターミネーターからの贈り物よ」と言う。エクスターミネーターとは前政権の関係者の集まりで、シンクタンクなどを設置し本格的な政策妨害もするが、今の政権をおちょくる悪ふざけも仕掛けてくる団体だ。ストリッパーが踊りをやめたころ、船の近くで大きな爆発音が響く。サマンサは反射的に船から川に飛び込んでしまう。水の中にいる彼女の目に映ったものは、にやりと笑ったネズミの形をした花火だった。サマンサはうんざりしながら犬かきで船に戻っていく。

 この本のもうひとつの面白さは、登場人物のモデルが誰かをつい想像してしまうところだ。サマンサのボスであるグレイ副大統領のモデルはやはり父親のゴアだろう。サマンサの働くホワイトハウスは次から次へとスキャンダルに揺れる。大統領は執務中に隠れて酒を飲むアルコール中毒者であることを副大統領にも告げていない。そればかりか、サマンサたちがインドの製薬会社から秘密裏に輸入した薬物を大統領が常用し始める。大統領スキャンダルの設定はビル・クリントンと接していた経験からだろうか。また、前政権の大統領をきついユーモアを交えて批判しているが、これはいまのブッシュ大統領をモデルにしているのではないかと思わせる。

 そうして、サマンサのボーイフレンドは『ワシントン・ポスト』紙の優秀な記者であるチャールズだ。彼からのプロポーズを待つサマンサだが、チャールズはニューヨーク支局に異動となってしまう。チャールズと長距離恋愛を続ける間に、サマンサはテレビニュース番組の司会者、女性上院議員、ハリウッドスターに言い寄られる。一方、チャールズは女性のルームメイトとニューヨーク生活を始める。

 スキャンダルを暴こうとする『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者、ホワイトハウスのスタッフ以外は知ることのできない情報が掲載されるブログの存在、そうして大統領の危うい行動などに取り囲まれながらも、サマンサは一生懸命すべての事態を乗り越えようと全力を尽くす。

 父親が8年間ホワイトハウスで務めた経歴から生まれた、サマンサのホワイトハウス奮闘記は可笑しく、ときには考えさせられ、最後には心が温まる物語だった。

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